「“妥協”って、わかるか?」
「法を曲げること?」
「違うよ。お互いに歩み寄ることだ」
偏見に立ち向かう勇気あふれる弁護士を描いたドラマ映画『アラバマ物語』が、NHKのBSで放送されます。
この記事では、映画『アラバマ物語』のあらすじをご紹介。また、「偏見にとらわれないように!」というテーマを訴えかける脚本を解説した上で、裏側に見え隠れするメッセージを考察してゆきます。
- 映画『アラバマ物語』BSプレミアムでのテレビ放送(2023)はいつ?原題は?
- 『アラバマ物語』あらすじを簡単に【人種差別の根強いアメリカ南部で、黒人を弁護する勇気あふれる弁護士】
- 子役はどんな人?ブー役の俳優は?『アラバマ物語』登場人物&キャスト
- 『アラバマ物語』のメッセージを解説!【偏見にとらわれないように!子供に見せたいヒーロー像】
- 『アラバマ物語』考察【マネツグミは殺してはならない。でも、アオカケスは?】
映画『アラバマ物語』BSプレミアムでのテレビ放送(2023)はいつ?原題は?
『アラバマ物語』は1962年のアメリカ映画。
人種差別の根強い、アメリカ南部が舞台。黒人男性を弁護する弁護士アティカスの勇気あふれる姿を、娘の視点から描く人間ドラマです。
映画『アラバマ物語』 | |
---|---|
原題 | To Kill a Mockingbird |
公開日 | 1962年12月25日 |
ジャンル | 人間ドラマ |
上映時間 | 129分 |
監督 | ロバート・マリガン(『マンハッタン物語』) |
原作 | ハーパー・リー『アラバマ物語』 |
出演 | グレゴリー・ペック、メアリー・バダム(子役) |
アカデミー賞 | 主演男優賞、脚色賞、美術賞 |
13:00 ~ 15:10
原題は、【 To Kill a Mockingbird 】。日本語にすると、「物まね鳥(※)を殺すには」となります。物まね鳥とは、別名モッキンバード。別の種類の鳥の声マネをすることから、「マネツグミ」とも呼ばれます。
“無害な鳥”を象徴しており、【 To Kill a Mockingbird 】で
- 無実の黒人を裁くことは、罪である
- ブー(=ひっそり暮らす障害者)を表に引きずり出すことは、罪である
という比喩になっています。
『アラバマ物語』あらすじを簡単に【人種差別の根強いアメリカ南部で、黒人を弁護する勇気あふれる弁護士】
1932年、アラバマ州のいなか町・メイカム。
6歳のスカウト(メアリー・バダム)は、男勝りの女の子。兄のジェムやその友達ディルたちと、元気に遊び回っていました。
近所には、ブー(ロバート・デュバル)という可哀そうな青年も住んでいます。ブーは精神病を患っており、部屋に監禁されているという噂でした。
しかし、誰もその姿を見たことがありません。
さて。スカウトとジェムの父・アティカス(グレゴリー・ペック)は、弁護士。穏やかで公平なアティカスは、町の人たちかも慕われています。
ある日のこと。
アティカスは、地元の判事から弁護の依頼を受けます。白人の娘メイエラを暴行した疑いをかけられた黒人トム・ロビンソン(ブロック・ピーターズ)を弁護してほしい、というのです。
アラバマ州は、人種差別が特に激しかったアメリカ南部にあります。黒人を弁護したアティカスは住人からなじられ、娘のスカウトも同級生から文句を言われます。
トムの裁判が開かれますが、陪審員はすべて白人。圧倒的不利な状況のなか、アティカスは
「どうか先入観を持たず、証拠にもとづいて判断してほしい」
と訴えますが・・・
子役はどんな人?ブー役の俳優は?『アラバマ物語』登場人物&キャスト
吹き替えはDVD版のもの。BSプレミアムの放送は字幕です。
アティカス・フィンチ
演:グレゴリー・ペック/吹き替え:諸角 憲一(もろずみ けんいち)
''Birini, olaylara onun bakış açısından bakmadığın sürece gerçekten anlayamazsın.''
— Gizem (@personafelsefe) April 24, 2024
To Kill A Mockingbird (1962) pic.twitter.com/q9LJHt9ASw
(出典:Gizem on X)
公平な弁護士。妻に先立たれ、男でひとつで2人の子供を育てる。
アティカスを演じたのは、アメリカの俳優グレゴリー・ペック。1940~1950年代のハリウッドを代表するスターです。
・『紳士協定』(1947)・・・人気ライターが“反ユダヤ”の記事を書くように依頼され、ユダヤ人になりすまして取材をする人間ドラマ。
・『ローマの休日』(1953)・・・身分を隠す某国の王女と、彼女を追う新聞記者の1日を描いたラブ・ロマンス。
・『ブラジルから来た少年』(1978)・・・ナチスの残党狩りの裏で進行する、身の毛もよだつ計画を描いたスリラー。
ジーン・ルイーズ・フィンチ(愛称:スカウト)
演:メアリー・バダム/吹き替え:小林 由美子
Happy 71st Birthday Mary Badham! Born October 7, in 1952...
— Classic Movie Hub (@ClassicMovieHub) October 7, 2023
Probably best remembered for her debut film role as Scout Finch in To Kill a Mockingbird... https://t.co/BtXxO9Dn7N pic.twitter.com/Z5E6mJtKeK
(出典: Classic Movie Hub on X)
アティカスの娘。男勝りで、負けん気が強い。
『アラバマ物語』原作者、女性小説家ハーパー・リーがモデル。
スカウトを演じた子役は、アメリカの俳優メアリー・バダムさん。
『アラバマ物語』で映画デビューしたのち、『雨のニューオリンズ』(1966)に出演しています。
ジェレミー・アティカス・フィンチ(愛称:ジェム)
演:フィリップ・アルフォード/吹き替え:浅井 晴美
スカウトの兄。行動力があり、正義感が強い男の子。
ディル・ハリス
演:ジョン・メグナ/
Philip Alford, Mary Badham and John Megna in between scenes of To Kill a Mockingbird, 1962... pic.twitter.com/LlPhR2fZwm
— Classic Movie Hub (@ClassicMovieHub) November 10, 2021
(⇧ 左から、ジェム、スカウト、ディル)
スカウトとジェムの近所に住む友達。鉄道会社の社長の息子で、カラダは小さい。
『ティファニーで朝食を』『冷血』で有名な作家トルーマン・カポーティがモデル。
トム・ロビンソン
演:ブロック・ピーターズ/声:宮島 史年(みやじま ふみとし)
白人女性メイエラを暴行した容疑で起訴された、黒人の青年。
メイエラ・バイオレット・ユーエル
演:コリン・ウィルコックス/
トムに暴行を受けたと主張する、白人の娘。
ボブ・ユーエル
演:ジェームズ・アンダーソン/声:織間 雅之
メイエラの父。乱暴な男で、トムを弁護したアティカスを脅す。
アーサー・ラドリー(愛称:ブー)
演:ロバート・デュバル/
スカウトの近所に住むが、誰もその姿を見たことがない。精神を患っており、自宅に監禁されているという噂。
障害者の青年ブーを演じたのは、アメリカの俳優ロバート・デュバル。『アラバマ物語』で映画デビューし、のちにアカデミー賞やゴールデングローブ賞の常連となる名優です。
By all accounts Marlon Brando was never great on learning his lines so for #Godfather he got Robert Duvall to hold then on his chest 👌🎥 #SaturdayVibes pic.twitter.com/NrxHdr5Dxy
— Gavin Geddes (@GavinGeddes7) June 10, 2023
- 『ゴッド・ファーザー』(1972)・・・ファミリーの顧問弁護士トムの役。
- 『地獄の黙示録』(1979)・・・戦争好きのキルゴア中佐。
『アラバマ物語』のメッセージを解説!【偏見にとらわれないように!子供に見せたいヒーロー像】
形を変えてくり返されるメッセージ「偏見にとらわれないように!」
『アラバマ物語』では、黒人青年を弁護したアティカスが周りの声に流されず、信念を貫く姿が描かれています。メインとなるテーマは、もちろん「人種差別」。
しかし、実は「偏見にとらわれないように!」というメッセージを、何度も何度も観客に訴えかけています。
「夜になるとブーが来て、家の中をのぞくって、本当?」
ジェムとスカウト兄妹の近所には、ブーという近所から怖れられている男性が住んでいます。
「背が2mもある」「ネズミや猫をたべるんだって」「歯はまっ黄色で目玉が飛び出していて」
ブーは昼間は出歩かないため、根も葉もない噂が飛び交っています。
ブーに興味を持ったスカウトは、父アティカスに尋ねます。
スカウト「夜になるとブーが来て、家の中をのぞくって、本当?」
アティカス「やめなさい。かわいそうな人なんだ」
“実際に会ってもいない人のことを、噂だけで決めつけるな”
というメッセージになっています。
「こいつが弁当を持ってこないのは、家が貧乏だからだ!」
アティカスの娘・スカウトは、小学校で男の子と取っ組み合いのケンカになります。
男の子は、農家のカニングハムさんの息子。映画の冒頭で、弁護料の代わりにナッツを持ってきた農民の子供です。
スカウトは、
「(カニングハムさんの息子が)弁当を持ってきてないのは、家が貧乏だから」
と、先生に告げ口し、カニングハムさんの息子とケンカになります。
兄のジェムは二人を仲直りさせようと、カニングハムさんの息子をフィンチ家に招待します。ここでも、スカウトは思ったことをズケズケ言ってしまいます。
スカウト「肉にシロップをかけている。お皿の上がシロップだらけじゃない!」
カニングハムさんの息子は泣き出してしまい、お手伝いさんのキャルはスカウトを叱ります。
キャル「お友達でしょ。好きにさせてあげなさい」
父アティカスからも、諭されます。
40分14秒。
アティカス「コツを覚えるんだ。相手の気持ちを思いやることだ。相手が何を考えているか、考えることだ」
Gregory Peck and Mary Badham on the set of 'To Kill a Mockingbird'(1962). pic.twitter.com/0seCYpdQKK
— Classic Hollywood(GP) (@CHC_1927) February 12, 2019
「心配いらないわ。きっとよくなる」
暴行容疑をかけられたトムが、裁判所に移送された夜のこと。
街の人たちがトムを襲おうと集まってきますが、アティカスは裁判所の前に立ちはだかります。スカウトは、いきりたつ住民の中に、農家のカニングハムの姿を発見します。
スカウト「カニングハムさん。作物の出来はどうですか?(中略)
息子さんとは同じクラスよ。いい子だわ。
カニングハムさん。景気が悪くて作物が売れないのね。
でも心配らないわ。きっと(景気は)よくなる」
スカウトの思いやりにあふれた言葉に、住民たちは落ち着きを取り戻します。景気が悪くて貧しくなり、怒りの矛先が黒人差別に向かっていたんですね。
“相手が何を考えているか、考えることだ”
父アティカスの言葉を自分なりに消化し、スカウトが成長を見せるシーン。
スカウトは“偏見にとらわれない”考え方ができるようになっており、後半のトムの裁判やブーの正体をめぐるシークエンスにつながってゆきます。
ここから先は、ネタバレを含む内容になっています。本編をご覧になってからお読みください。
『アラバマ物語』考察【マネツグミは殺してはならない。でも、アオカケスは?】
「偏見にとらわれないように!」というメッセージを送る脚本も、信念を曲げないアティカスのヒーロー像も素晴らしい・・・
しかし、シナリオを細かく分析すると、どうしても気になる点があります。
36分49秒。
カニングハムさんの息子を招き、フィンチ家のみんなと昼食を摂るシーン。
銃の話題をふられたアティカスは、14歳のときに父から譲りうけた銃の話をします。
「裏庭で缶を撃つ練習をした。(中略)アオカケスも狙えるようになった。
だかな、ツグミを撃つのは罪なこと。きれいな声で鳴く。人には無害な鳥だからだよ」
無害なツグミとは、黒人青年トムやブーのことを指します。
原題【 To Kill a Mockingbird 】(物まね鳥を殺すには)につながる重要なセリフで、人の庭も畑も荒らさない無害な人を傷つけてはならない、というメッセージ。
しかし、裏を返せば、「アオカケスは殺してもいい」というように聞こえます。
42分32秒。
フィンチ家の近くに狂犬がうろついており、アティカスと銃を持った保安官のテイトが現れます。
スカウト「テイトさん、撃たないで」
テイト「危険な犬だ。早く撃ち殺さないと。でも、長いあいだ撃ってない」
保安官のテイトは、銃をアティカスに渡します。
アティカスは一瞬ためらったあと、銃をかまえ、犬を射殺します。
保安官ではなく、主人公のアティカスが銃を撃っています。
(⇦ 法を重んじる人間でも、手を下さなければならない時があるという暗示)
1時間33分34秒。
黒人青年トムの裁判。
法廷に立ったアティカスは、
「被害者には同情の念を感じます。彼女こそ、貧困と無知による犠牲者なのです」
と、トムを告訴した白人女性に同情しつつも、
「自分の罪を隠すため無関係な人の生命を危険にさらすなら、同情などできるものではありません」
と、非難しています。
これらの3つのシーンから、
アオカケスとは、「行き過ぎた差別主義者」や「無関係な人たちを脅かす危険な存在」である、推測されます。
差別主義者のユーエルも、住民の命を脅かす狂犬も、結果的には死んでいます。しかも、法による秩序によって罰せられるのではなく、どちらも法を越えた強制力によって命を絶たれています。
「人道的支援」と称して、他国の紛争に介入してゆく“世界の警察”アメリカ。『アラバマ物語』には、そういったゆき過ぎた思想のルーツも垣間見えるのです。
- 偏見はよくない、というストレートなメッセージ
- 無関係な人たちを脅かす存在に対しては、“力の行使”もやむを得ないという暗示