※この記事は、2023年6月に更新しました。
昨年、久しぶりに黒澤明 監督の『羅生門』を観たのですが、抜群に面白かった! 複数の視点からひとつの事件に真相に迫るという手法は、今みても新鮮です。
今回は映画『バンテージ・ポイント』をレビューしてみたいと思います。『羅生門』同様、立場の違う複数の人物の視点から、立体的に事件を浮かび上がらせるタイプの映画です。
映画『バンテージ・ポイント』の概要
『バンテージ・ポイント』は、2008年公開。アメリカ大統領狙撃事件の真相にせまる、サスペンス&アクション映画です。
バンテージ・ポイント | |
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原題 | Vantage Point |
製作国 | アメリカ |
公開年 | 2008年 |
上映時間 | 90分 |
監督 | ピート・トラヴィス |
脚本 | バリー・レヴィ |
出演 | デニス・クエイド、マシュー・フォックス |
出演は、『オーロラの彼方へ』のデニス・クエイド、ドラマ『LOST』のマシュー・フォックス、『大統領の執事の涙』のフォレスト・ウィテカーなど。
『バンテージ・ポイント』のあらすじ
スペインのサラマンカでは、テロ根絶のための国際会議が開かれておりました。この日は、アメリカのアシュトン大統領(ウィリアム・ハート)の演説が行われる予定でした。
会場となるマヨール広場には、たくさんの聴衆や各国のテレビクルーが集まっています。現場では不測の事態にそなえて、シークレット・サービスが物々しい警備にあたっています。
シークレット・サービスのバーンズ(デニス・クエイド)は、広場ちかくのアパートの一室のカーテンが揺れているのを見つけます。すぐさま調べさせますが、異常はありません。
そんな中。午後0時23分。
スピーチしようと壇上に立ったとたん、大統領は何者かに撃たれてしまいます。バーンズは、必死に手がかりを探します。すると、ビデオ・カメラで演説を撮影している旅行客ルイス(フォレスト・ウィテカー)を見つけます。
バーンズがルイスにビデオを見させてもらうと、犯人とおぼしき人物が映っていたのですが・・・
▲クリックすると動画が読み込まれます。
複数視点映画の隠れた名作!『バンテージ・ポイント』レビュー
1回1回巻き戻るタイプの『24』?
「複数視点」という触れ込みだったので、映画『羅生門』のように、“視点を変えると実像がわからなくなる”タイプのサスペンスを想像していました。
関連:“複数視点”映画の代表作!
けれども、パッと見たときに感じたのは、海外ドラマ『24』に近い感覚。
『24』では、テロ対策機関の捜査官、テロリスト、大統領など、複数の人物の行動が描かれます。ときに画面を2分割、3分割して、リアルタイムで見せる手法がとられていました。
『バンテージ・ポイント』の場合は画面を分割せず、1回1回巻き戻って、大統領が狙撃された前後に起こったことを見せてゆきます。
- 演説を中継するテレビスタッフの視点
- シークレット・サービス(大統領警護)バーンズの視点
- アメリカからの旅行客の視点
- 地元スペインの刑事の視点
- アシュトン大統領の視点
- テロリスト側の視点
- 地元スペインの刑事の視点
この作品の脚本が見事なのは、「えっ!? その後どうなるの?」という場面で1回ストップして、巻き戻るところ。複数視点から、狙撃までのてん末を描いてゆきます。
そして、終盤。物語はいっきに加速!
逃走する犯人と追いかけるバーンズを中心に、別々のキャラクターの視点が交わってゆきます。投げっぱなしだった「その後どうなるの?」が、凄まじいスピードで繋がってゆきます。この爽快感、たまりません。
圧巻の映像表現!立場が違えば、考え方も変わる
原題の『Vantage Point』は直訳すれば、「有利な立場」。このままだとわかりづらいですが、from your vantage point で、「あなたの目から見れば」という意味となります。
この「あなたの目から見れば」というのは、単にカメラの視点だけではなく、ものの見方・考え方も含んでいます。
対話を信じる大統領。子ども思いの一般市民。過去のトラウマと闘う警護官。やむにやまれぬ事情を抱えたテロリスト・・・
そんな立場の異なる人物たちが、クライマックスのある一点で交差します。時間にして、わずか数秒。
その瞬間、各キャラクターたちが内に秘めた人間性を見せます。しかも、セリフではなくアクション(=行動)で!!
映像表現としてすばらしいし、長ゼリフを並べるよりずっと感動的です。
2023年6月現在、Amazonプライムビデオでも字幕版のみ配信されています。