『七人の侍』などで知られる映画監督の黒澤明。彼の生誕110周年を記念して、映画『羅生門』のデジタル完全版が、NHKでテレビ放送されます。
この記事では、『羅生門』のあらすじと魅力、複数視点から事件をさかのぼる画期的な手法についてお伝えしたいと思います。
- 映画『羅生門』NHKでのテレビ放送はいつ?
- 黒澤明監督『羅生門』のあらすじとキャスト
- 映画『羅生門』の魅力
- 複数視点から事件を語る!海外映画に与えた影響も
- 原作は、芥川龍之介の短編『羅生門』+『藪の中』
映画『羅生門』NHKでのテレビ放送はいつ?
『羅生門』は、1950年の日本映画。
ある男の変死事件の真相をめぐる、サスペンスタッチの人間ドラマです。
映画『羅生門』概要 | |
---|---|
英語タイトル | Rashomon |
上映時間 | 88分 |
監督 |
黒澤明(『七人の侍』) |
原作 | 芥川龍之介『藪の中』 |
脚本 | 黒澤明、橋本忍 |
出演 | 三船敏郎、森雅之、京マチ子 |
受賞歴 | ヴェネツィア映画祭 金獅子賞 |
15:05 ~ 16:35
※テレビ放送は終了しています。
黒澤明監督『羅生門』のあらすじとキャスト
かんたんな内容
平安時代の京の都。
あいつぐ戦乱と疫病の流行で、人々の心もすっかり荒廃していました。雨の降る平安京の羅生門(らしょうもん)では、3人の男が雨宿りしていました。
(⇦ 焚き木売り、旅の法師、下人の3人)
「わからねえ。さっぱりわからねえ」
焚き木売りは、自分が参考人として出席した裁判のことを、思い出していました。
3日前。
焚き木売りは、山の中で武士の死体を発見。すぐに事件を検非違使に届け出ます。
(⇦ 検非違使(けびいし)とは、いまの警察と裁判官の役割をかねたような役人)
検非違使は、事件の関係者を集めます。盗賊の多襄丸(たじょうまる)。なくなった武士の妻。さらに、なくなった武士の魂を、巫女さんに呼び出してもらいます。
(⇦なくなった被害者本人にも真相を聞く、という発想が面白い!)
ところが、3人の証言はことごとく食い違っていました。いったい、誰が本当のことを話しているのでしょうか?
キャスト
- 多襄丸(たじょうまる・盗人)・・・三船 敏郎
- 金沢武弘(被害者となった武士)・・・森 雅之
- 真砂(金沢の妻)・・・京 マチ子
- 杣売り(そま売り・焚き木を売る人)・・・志村 喬(しむら たかし)
- 旅の法師・・・千秋 実(ちあき みのる)
- 下人・・・上田 吉次郎(うえだ きちじろう)
映画『羅生門』の魅力
事件の関係者たちが自分に都合のよいことばかり証言して、真相がわからなくなる、というのがこの作品の面白さです。
それに加え、この事件は計画的なものではありません。相手のちょっとした態度にめらめらと正義感が燃えたり、欲情したり、イラついたり・・・
人間の場当たり的なエゴイズムと、それを正当化してしまう身勝手さが描かれています。
複数視点から事件を語る!海外映画に与えた影響も
映画『羅生門』では、ひとつの事件を視点を変えて描く手法がとられています。このやり方は「ラショーモン・アプローチ」と呼ばれ、海外の映画監督たちに多大な影響を与えます。
マーティン・リット監督の『暴行』(1964年)は、『羅生門』の舞台をアメリカ西部に置き換えた作品。事実上のリメイクです。
他にも、たくさんの映画が『羅生門』の手法をマネています。
- 娼婦殺しの容疑者たちが尋問を受ける、『殺し』(1962年)
- 湾岸戦争の不祥事を描いた『戦火の勇気』(1996年)
- 無名の男が、中国最強の刺客たちを倒した事件の真相を語る『HERO』(2002年)
- 消息を絶ったレンジャー部隊の真実をあばく『閉ざされた森』(2003年)
- 空・陸・海。3つの視点から語られる戦争映画『ダンケルク』(2017年)
映画『羅生門』の脚本を書いたのは、黒澤明と橋本忍です。
ただし、「ラショーモン・アプローチ」が彼らの発明かというと、そうではありません。複数の視点から事件を語る手法は、もともと芥川龍之介の原作にあった要素なのです。
原作は、芥川龍之介の短編『羅生門』+『藪の中』
芥川龍之介の原作『羅生門』を、授業で習った人も多いのではないでしょうか?
わたしも、国語の授業で学んでいました。でも、映画『羅生門』をみて、こんな感想を抱きます。
「あれ? こんな話だったっけ?」
羅生門で雨宿りしていた、下人と老婆。老婆は、死体から髪の毛をぬいてカツラにしようとする。下人は老婆の浅ましさを見下し、独りよがりの正義感から彼女を罰してやろうとする・・・小説はそんな内容だったはず。
実は、映画『羅生門』で3人の証言がくい違う話は、芥川龍之介のべつの短編『藪の中(やぶのなか)』がもとになっています。
今でも、「真相はやぶの中」という表現を使うことがありますが、その語源となった小説です。
興味をもったわたしは、古本屋で『芥川龍之介 全集』を購入します。つけもの石になりそうな、めちゃくちゃ重い本です。
ありました、『藪の中』! びっくりするほど、みじかい短編です。5分もあれば読み終わります。だけど、めちゃくちゃ面白い!
『羅生門』『藪の中』を2つとも掲載している文庫は少ないのですが、読むなら文春文庫がおすすめ!!
関係者の証言がくい違うのは、映画版と同じ。
ただ、小説のほうは刹那的な心の変化も描かれています。話だけ聞けば、みんな自分勝手です。でも、瞬間的に態度を変えるってコト、人間あるよな~、と妙に納得してしまいます。