“ミステリの女王”アガサ・クリスティ。
彼女の小説を読んだことがない人でも、『オリエント急行殺人事件』『そして誰もいなくなった』といった作品名は聞いたことがあるのではないでしょうか?
この記事では、クリスティを知らない人でも楽しめる、初心者向けの本をご紹介します。
アガサ・クリスティは、こんな作家!
アガサ・クリスティはイギリスの推理作家です。1890年、使用人のいる裕福な家に生まれたアガサ。学校には通わず、母から教育を受けました。空想好きなアガサが子供の頃に書いた小説は、母を驚かせました。のめりこむほど面白かったのです。
アガサは1920年、『スタイルズ荘の怪事件』で小説家デビュー。読みやすい語り口、大胆なトリックがミステリーファンの心をつかみ、人気作家となります。
クリスティの作品は人物描写にもすぐれ、嫉妬やうぬぼれなどネガティブな感情も魅力的に描かれています。
アガサ・クリスティ入門!読みやすい文庫おすすめ本7選
文庫で読むなら、ハヤカワの「クリスティ文庫」がおすすめ!
クリスティの著作は、作品によってはいくつもの出版社から発売されています。でも、初心者が読むなら、だんぜん早川書房の「クリスティ文庫」がおすすめ!
翻訳者はバラバラですが、数多くのクリスティ作品を扱ってきた出版社だけに、安心感があります。
『ABC殺人事件』
出版:1936年
探偵:エルキュール・ポワロ
名探偵ポワロのもとに、「ABC」と名乗る人物から、挑戦状が送られてきます。
「6月21日。アンドーヴァー(=イギリスの地名)を警戒せよ」
挑戦状に書かれた予告どおり、Aで始まる町の(Andover)で、イニシャルがAの女性が命を奪われます。その後、アルファベットの順番に第2、第3の事件が起き・・・
頭のおかしな愉快犯か? それとも?
ページをめくる手が止まらなくなる、テンポの良さ。大胆な設定。クリスティ入門には最適な一冊です。
『アクロイド殺し』
出版:1926年
探偵役:ポワロ
イギリスの田舎。真夜中の電話にかけつけたシェパード医師が見たのは、村の名士・アクロイドの無残な姿でした。時を同じくして、アクロイドの甥っ子も行方不明になります。
仕事を引退し、この村でカボチャを栽培していたポワロは、事件に巻きこまれ・・・
はじめてこの小説を読み終えたとき、興奮して眠れませんでした。推理小説を2度読み返したのは、この時だけ。この本をまだ読んでない人が羨ましい。あの体験をこれから味わえるのだから・・・
『そして誰もいなくなった』
出版:1939年
探偵役:—
オーウェン夫妻から招待され孤島に集まった、年齢も職業も異なる10人の男女。ところが、招待主の姿は島にはなく、手紙もニセモノであることが判明します。そして、夕食の席で不気味な声が響きます。
それは、10人が過去に犯した罪を告発する内容でした。やがて、マザー・グースの童謡になぞらえて、1人、また1人と始末されてゆき・・・
外の世界との連絡手段を絶たれ、追いつめられてゆく恐怖! 疑心暗鬼になってゆく生存者たち。閉鎖された空間で事件が起こる、“クローズド・サークル”ものの代表格です。どれだけの作家が、この作品に影響されたことか! もっとも出版された、クリスティの代名詞です。
『邪悪の家』(エンドハウスの怪事件)
出版年:1932年
探偵役:ポワロ
南部の海岸でバカンスを楽しむポワロは、天真爛漫な美女・ニックと出会います。海岸近くのエンドハウスの所有者だという彼女は、ここ最近、3回も危ない目に遭ったといいます。すると、会話の最中、一発の銃弾が!
ニックを守るためエンドハウスへ赴くポワロでしたが、遂に悲劇は止められず・・・
ポワロのことを“名探偵”と知りつつ、大胆な犯行を続ける犯人。ポワロが最も苦戦した事件のひとつでしょう。「これはやられた!」と心底驚きました。
『動く指』
出版:1943年
探偵役:ミス・マープル
戦争中、飛行機事故で負傷したジェリー。彼は、静養のために妹ジョアナと田舎町にやってきます。すると、「ジェリーとジョアナは兄妹ではない」と、誹謗中傷の手紙が届きます。この町には、他の人々に対しても嫌がらせの手紙が送りつけられていました。やがて、悲劇が起こります。
「誰だ! 匿名の手紙を出しているのは?」
ジェリーとジョアナは聞きこみを始めますが・・・
誹謗中傷。匿名の手紙・・・まさに、今でも通じるテーマ。最後にちょこっと登場して、若い2人に知恵を授ける老婦人ミス・マープルが素敵!
『スリーピング・マーダー』
出版:1976年(執筆は1943年)
探偵役:ミス・マープル
新婚の妻・グエンダはヴィクトリア朝の素敵な家を購入して、改装をはじめます。ところが、違和感が! 初めての家のはずなのに、石段の数、ドアの位置まで知っているような気がするのです。そして、見覚えのあるヒナゲシ模様の壁紙!
やがてグエンダは記憶の片すみに眠っていた、恐るべき事件のことを思い出します。彼女が幼い頃に、この家の階段の手すりのすき間から、犯行現場を目撃していたのです!
過去を暴かれることを嫌う住人たち。トラウマと闘いつつ、聞きこみを続けるグエンダ。それを手助けする老婦人ミス・マープル。読み物として、抜群に面白い!
『ゼロ時間へ』
出版:1944年
探偵役:バトル警視
静かな海辺の館に集まっていたのは、スポーツ選手とその若い妻、そして前妻。館の主の老婦人と、その使用人たち。そして、莫大な遺産を残し、老婦人が犠牲となります。
すぐさま、ある人物が疑われますが、これは恐るべき計画の幕開けに過ぎませんでした・・・
「事件は、起こる前から始まっている」
という哲学のもと、犯人が計画を立てる時点から物語はスタート。そして、犯行の瞬間“ゼロ時間”へと向かってゆきます・・・
ミステリーの定義をくつがえす、大胆な手法! 数々のトリックの先駆者でありながら、小説技法への挑戦者でもあったクリスティ。用意周到に張られた伏線の数には、ただただ驚かされます。
まとめ
アガサ・クリスティの推理小説は、たくさん映像化されています。でも、映画やドラマではなく、できるだけ小説で体験してほしい。
というのも、集中力が必要な小説のほうが、作品世界にのめりこめます。そのぶん、意表をつくトリックと意外な真相を知って、シンプルに驚けるからです。