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傑出した駄作! カルト映画『シベリア超特急』を語る

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『金曜ロードショー』の名解説者・水野春郎さんが、メガホンを取って主演もした映画『シベリア超特急』。世間的にはトンデモ映画の烙印を押されていますが、時おり無性に見たくなります。

 

そんな『シベリア超特急』の不思議な魅力について、語りたいと思います。

あらすじは、こんな感じです。

第二次大戦中の1941年。独ソ戦が始まる直前。ソビエトから満州へ向かうシベリア超特急の車内で起きた事件の謎に、山下陸軍大将が挑む。

 

あなた、誰? 知らない人たちによるオールキャスト

 

本作が間違いなく参考にしたであろう作品が、『オリエント急行事件』(1974年)でしょう。アガサ・クリスティー原作の映画化で、イングリッド・バーグマンショーン・コネリーヴァネッサ・レッドグレイヴなど、各国の名優を揃えたキャスティングが話題となりました。

 

『シベリア超特急』にも、多岐に渡る国籍のキャストが出演しています。しかし、その全てが「あんた、誰?」というレベルの見たこともない外国人ばかり。盛り上がりに欠けるのは事実です。しかし、無名な役者ばかりなので逆にストーリーが読めなくなり、ミステリーとしてはプラスに作用しています。

 

走っているように見えない列車

 

作中、事件の舞台となるシベリア鉄道は、走行中という設定です。にも関わらず、まったく走っているように見えません。止まっています。

 

走行中の列車の窓から、隣の客車に飛び移るというスリリングな場面は、ほぼ役者の演技だけで乗り切っています。風や揺れによる演出は、一切ありません。

 

水野さんの棒読みは、一周回ってクセになる

 

本作のキャストは、李蘭役のかたせ梨乃、青山外交官役の菊池孝則以外は、演技経験に乏しい素人たち。

山下大将役の水野春郎や、佐伯大尉役の西田和昭はどう見ても素人で、演技レベルの差は歴然。

 

しかし不思議なもので、その素人芝居も段々とクセになってくるもの。

 

眠ってばかりいる事をからかわれた山下大将が、

「ばか! 起きておる。ちゃんと報告せい!」

と強がるシーンではほっこりし、

「軍人だって、ひとりひとり考えが違う」

と名ゼリフを発すれば、そのとおり!と激しく同意してしまいます。

 

しかし、何といっても忘れられないのは、山下大将の第一声。

「ボルシチはうまかったぞ」

は映画史に残る名ゼリフです。私だけかもしれませんが。

 

そもそも山下陸軍大将って?

 

ところで、水野春郎さんが演じた山下泰文(やました ともゆき)とは何者でしょうか?

 

山下大将は、終戦間際にフィリピンの防衛を託された指揮官です。終戦後に戦犯として処せられましたが、実際には民間人の巻き添えを防ぐために尽力したとか・・・職業軍人としての公の立場に、最後まで苦しんでいた人物のようです。

 

映画ではヒトラーとも会談した、と語られていましたが、これは史実のようです。周囲の人物がこの山下に一目置いているのは、そういう理由からだったのですね。

 

人物たちの出身国を考えると、行動が理解しやすい

 

当時の社会情勢や民族の歴史を知らないと、ストーリーがわかりにくい『シベリア超特急』

 

しかし、実はキャラクター造形に水野春郎さん(← 脚本も担当!)ならではの工夫が・・・各国出身のキャラクーたちは、当時の国際情勢をそのまま体現化しているのです。

 

どういう事かと言うと、大国ドイツソビエト出身の人物たちは高圧的な性格。これに対して、ユダヤキルギス契丹などの少数民族は、悲しい過去を背負ったキャラクターとなっています。国どうしの力関係が、そのままキャラクターの性格付けとなっているのですね。

 

監督の水野春郎さん自身も、満州で幼少時代を過ごしています。戦時中は相当なご苦労をされたようで、それがこの映画を作る原動力となっているのでしょう。

 

あまりにアンフェア? 二度の大どんでん返し

 

本作を名作(迷作?)たらしめているのは、終盤のどんでん返しにあります。監督・水野さんの意向を踏まえてネタバレは避けますが、『シックスセンス』級のどんでん返しがある、ということ。それも、2回

 

ただ、致命的なのはこのどんでん返しが、伏線を張っていない後出しジャンケンであること。そのため、見ているほうは呆気にとられます。口を開けて、「なんだ、これ?」とつぶやくレベル。しかし、何事も挑戦なくして進歩なし。

 

もしこのアイディアを煮詰めた上で、脚本をリライトすれば、評価は違ったかもしれません。そう。『シベリア超特急』はただの駄作ではありません。傑作になり損なった駄作なのです。いや、それはホメ過ぎか・・