※この記事は、2023年4月に更新しました。
純粋無垢な子どもの姿が胸を打つ!
イランの巨匠アッバス・キアロスタミの代表作『友だちのうちはどこ?』が、NHKのBSでテレビ放送されます。
この記事では、映画『友だちのうちはどこ?』のあらすじ、国際的に高く評価された理由について解説。また、初心者でも入りやすいおすすめのキアロスタミ作品もご紹介します。
- 映画『友だちのうちはどこ?』BSプレミアムでのテレビ放送(2023)はいつ?
- 『友だちのうちはどこ?』あらすじ【友だちが心配で,何キロも離れた家にノートを返しにゆく】
- 考察&解説【心が洗われる名作のウラ側】イラン政府の厳しい検閲の中で,なにを表現できるか?
- 配信で見られる作品も!【美しい風景と豊かな人生観】 アッバス・キアロスタミ監督のおすすめ映画
映画『友だちのうちはどこ?』BSプレミアムでのテレビ放送(2023)はいつ?
『友だちのうちはどこ?』は1987年のイラン映画。
つつましい村に暮らす小学生の男の子が、友だちのノートを持ち帰ってしまいます。その日のうちにノートを返すため、何キロもの道を歩いて届けようとする人間ドラマです。
映画『友だちのうちはどこ?』 | |
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原題 | خانه دوست کجاست ؟ |
公開 | 1987年 |
製作国 | イラン |
ジャンル | 人間ドラマ |
上映時間 | 85分 |
監督 | アッバス・キアロスタミ(『オリーブの林をぬけて』) |
脚本 | アッバス・キアロスタミ |
出演 | ババク・アハマッドプール、アハマッド・アハマッドプール |
13:00 ~ 14:20
『友だちのうちはどこ?』あらすじ【友だちが心配で,何キロも離れた家にノートを返しにゆく】
イラン北部のコケール村の小学校。
アハマッド(ババク・アハマッドプール)のクラスメートのネマツァデ(アハマッド・アハマッドプール)が、泣いています。先生にこっぴどく叱られているのです。
理由は、ノートに書いてくるべき宿題を別の紙に書いてきたから。
「また同じことをやったら退学にするからな!」
先生は、ネマツァデに警告します。
さて。
授業が終わり、アハマッドは家に帰って宿題をやろうとします。しかし、あることに気付きます。間違って、隣の席のネマツァデのノートまで持ってきてしまったのです!
「このままじゃ、ネマツァデは退学になってしまう!」
友だちが心配で、勉強も手に付きません。そこでアハマッドは、隣りの村に住むネマツァデにノートを届けようとしますが・・・
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考察&解説【心が洗われる名作のウラ側】イラン政府の厳しい検閲の中で,なにを表現できるか?
損得勘定ぬきで、友だちにノートを届けようとするアハマッド。アハマッドが出会う、つつましい生活をしている市井(しせい)の人々。
子供の純粋でまっすぐな姿が、感動を呼びます。
でも、ホントにそれだけの映画なのか?
イランでは1979年に「イラン革命」が起き、伝統的なイスラム教への回帰をめざした国づくりが行われました。
その一環として、映画は“厳しい検閲”にさらされるようになります。
政府批判はもちろん、女性の人権問題、西洋文化を称賛するような話題は扱うことができませんでした。モフセン・マフマルバフ(『サイクリスト』)、ジャファール・パナヒ(『人生タクシー』)のように、検閲に引っかかって逮捕・投獄された映画監督がたくさんいます。
アッバス・キアロスタミは「子ども」や「市井の人々」を主人公に据え、当局の検閲をくぐり抜けてきました。
しかし、『友だちのうちはどこ?』にも、“体制批判”とも取れるメッセージを読み解くことができます。
宿題はノートに書かねばならない、という“形式”にこだわる先生。
すでにタバコを持っているのに、アハマッドにタバコを買いにゆかせる老人。
理不尽なルールを強要する大人たちは、時代に合わなくなった“約束事”を押し付ける政府を象徴しているかのようです。
昔ながらのドア職人のおじいちゃんがくれた花。
押し花のようにノートに挟まれていたけど、先生が気づかなかった花。
あれは、イラン革命の前には許されていた“自由な空気”を象徴しているのかもしれません。
配信で見られる作品も!【美しい風景と豊かな人生観】 アッバス・キアロスタミ監督のおすすめ映画
キアロスタミ作品を楽しむには、ある程度の“リテラシー”が必要です。
劇的な出来事が起こるわけでもない。劇伴(=映像に合わせた音楽)もほとんど使わない。風景の中に人物を一体化させたロングショット(=遠景)が多用される・・・
アート系映画やドキュメンタリー映画を見慣れていないと、「退屈だ」「眠くなる」と感じやすい作風だからです。
ここでは、初心者でも親しみやすいキアロスタミ映画をご紹介します。
『トラベラー』(1974年)・・・『友だちのうちはどこ?』の原型
- 監督&脚本:アッバス・キアロスタミ
- 上映時間:71分
- 出演:ハッサン・ダラビ、マスウード・ザンドベグレー
10歳のガッセムは、どうしてもテヘランで行なわれるサッカーの試合が観たい。でも、会場までのバス代とチケット代がない。ガッセムは友だちのアクバルとともに、あの手この手でお金を集めようとするが・・・
子ども映画。ただし、『トラベラー』のガッセムは、先生が手を焼くほどの悪ガキです。ガキ大将たちが生き生きと描かれた昭和のマンガのような、懐かしさがあります。
『桜桃(おうとう)の味』(1997年)・・・生への強いメッセージ
- 監督&脚本:アッバス・キアロスタミ
- 上映時間:98分
- 出演:ホマユン・エルシャディ、アブドルホセイン・バゲリ
- 受賞歴:カンヌ映画祭 パルムドール(最高賞)
人生に絶望した中年男・バディは、道行く人々におかしな頼み事をする。
「僕はこれから自殺する。明日の朝、あの穴に横たわった僕に声をかけてくれ。返事があったら起こして、返事がなかったら土をかけて埋葬してくれ」
見ず知らずの主人公の話をいちいち話を聞いてくれ、もてなしてくれる人々。絶望しているはずなのに協力者を探すのに必死、というユーモア・・・
娯楽映画では味わうことができない、豊かな映画体験が待っています。
『風が吹くまま』(1999年)・・・大切なこと,見過ごしてない?
- 監督&脚本:アッバス・キアロスタミ
- 上映時間:118分
- 出演:ベーザード・ドーラニー、ファザード・ソラビ
めずらしいお葬式があると聞き、取材のためにクルドの村を訪れたテレビクルー。ディレクターのベーザードは、祖母がいまにも死にそうだという少年・ファザードに村を案内してもらう。
ところが、ファザードの祖母はいっこうに亡くなる気配がなく、ベーザードはイライラを募らせてゆき・・・
“人の死”をネタにしていた業界人が、村の人々と対話してゆくうち、見過ごしていた日常生活の機微、自然の美しさに気付かされてゆく。
金色の麦畑は必見! あの風景だけでも、見る価値がある!