TBSドラマ『MIU404』の最終話(第11話)が放送されました。久住の正体をめぐって、Twitterでは視聴者さんの考察が盛り上がりました。
そんな中、終盤に出てきた久住のセリフ「俺はお前たちの物語にはならない」が話題となっています。このセリフには、どんな意味がこめられているのでしょうか?
久住のセリフ「俺はお前たちの物語にはならない」の意味とは?
最終回の放送前から、久住の正体をめぐって視聴者さんの考察合戦はヒートアップしていました。
- 久住と九重は兄弟? (⇦ 漢字の読み方が、どちらも“クジュウ”)
- 無国籍児? (⇦ “裏口”を意味するコンピュータ用語『バックドア』)
- 東日本大震災の被災者? (⇦ 泥水に流されればいい、10年前)
- 大型台風で行方不明になった人? (⇦ 車のナンバーが、台風9号が関西を直撃した日と同じ)
わずかな手がかりから考察し、もっともらしい推論を導くツイッター民たち。スゲーよ、スゲー。よく思いつくなぁ。天才かよ!
と思っていたら、ラスト直前。伊吹から「どこで育った?」と聞かれた久住は、こんなセリフをしゃべります。
「なにがいい?
不幸な生い立ち?
ゆがんだ幼少期の思い出?
イジメられた過去?
ん? どれがいい?
オレはお前たちの物語にはならない」
が~ん! 痛恨の一撃!!
久住の正体を考察していた私たちに、冷や水が浴びせられます。
脚本の野木さんは、あえてミスリードするような手がかりを与えておき、散々わたしたちが考察に熱中したあとに、
「考察なんて意味ないから!」
と、突き放したわけです。
久住は自分の名前も生い立ちも、本当のことは語っていません。結局、どんな考察も彼の正体に迫れなかったのです。
クルーザーでパチリ📸
— 【公式】『MIU404』最終回 9月4日(金)夜10時放送! (@miu404_tbs) September 5, 2020
見て頂いた方はお分かりだと思いますが、クルーザーのシーンは超濃厚!
丸2日、熱いお芝居が繰り広げられ、とてもハードな時間となりました✨#MIU404 #MIU404感謝祭#綾野剛 #星野源 #菅田将暉 pic.twitter.com/2b48KBFqWB
やられたよ!参りました!
第10話で、バタフライ効果やメフィストフェレスについて考察した私は、ただのバカじゃないか。赤っ恥をさらしただけじゃないか。もう、我がライフはゼロよ。
関連:『MIU404』第10話考察!バタフライ効果・メフィストフェレスの意味とは?
野木さんが伝えたかったのは、みんなが見過ごしていること!
『MIU404』の最終話を見たあと、第1話からざ~っと見返してみると、あらためて見えてくるものがあります。
脚本家の野木さんは、このドラマを通して何を伝えたかったのか? テーマは何だったのか?
- 第2話・・・ハウスクリーニングで真面目に働いていたのに、専務を手にかけてしまった青年。
- 第4話・・・裏社会に足を踏み入れてしまった、元ホステス。
- 第5話・・・コンビニではたらくベトナム人留学生。
- 第7話・・・トランクルームでつつましく暮らす、中年男性。
各話を通して描かれていたのは、“まっとうに生きながらも報われない、社会的弱者”です。この中には、ひょんなことから人生が転落し、ギリギリの生活を強いられている人もいます。
関連:『MIU404』『アンナチュラル』脚本家・野木亜紀子はここがスゴい!
ところが、私たち視聴者は、こういった社会問題には目を向けません。関心があるのは、「真犯人は誰か?」ってことや、久住のサイコパスぶり。みんな、社会の片すみで必死に生きている弱者や貧乏人には、無関心です。
第5話で、テレビ局の局員が、こんな印象的なセリフをしゃべっています。
「外国人問題は視聴率が取れないからな」
これこそ、野木さんの本音。野木さんが光をあてた社会問題について論じた人が、どれだけいたでしょうか?
テーマなんて、そっちのけ。み~んな、考察に夢中でした。
これって、ワイドショーで殺人事件が報じられるときに似ています。理不尽に命を奪われた被害者には関心が向けられません。
(⇦ 関心が向けられるとしたら、被害者が“美人”だったとき)
犯人が捕まるまでは、犯人像のプロファイリング。捕まってからは、犯人の特異なパーソナリティに注目が集まります。
コメンテーターも視聴者も、“信じたい物語”を考えて自己陶酔しています。まるで、ニュースが暇つぶしになっているみたい。これでいいのかな?
『MIU404』の久住のセリフ、
「俺はお前たちの物語にはならない」
は、そんな私たちを痛烈に皮肉っているのではないでしょうか?
最終話『ゼロ』
— 【公式】『MIU404』最終回 9月4日(金)夜10時放送! (@miu404_tbs) September 4, 2020
ご覧になっていただき、ありがとうございました✨
そして、たくさんの応援ありがとうございました!!
MIU404は永遠です✨#MIU404#綾野剛 #星野源 #岡田健史 #橋本じゅん #黒川智花 #渡邊圭祐 #金井勇太 #坂田聡 #麻生久美子#tbs #金曜ドラマ pic.twitter.com/yJFxUGjp3q
脚本の野木 亜紀子さんは、インタビューで
「日本では、“わかりやすく優しいドラマ”ばかり作られています。暗いものや複雑なものを作っても、視聴率を取るのは難しい。(中略)これに対して海外ドラマでは、政治や社会問題があたり前のように描かれます。犯罪を描くのに、社会に触れないのはおかしいんじゃないでしょうか?」
と、語っています。
確かに、海外ドラマは社会問題に鋭く切り込みます。
- 『グッドファイト』・・・トランプ政権を厳しく批判する法廷ドラマ
- 『コールドケース』・・・アメリカの負の歴史に迫る推理ドラマ
- 『ザ・ボーイズ』・・・スキャンダルを隠ぺいする大企業を断罪する、ヒーロードラマ。
驚くのは、社会問題にメスを入れながらも、エンタメ性にも優れている点です。
【面白いだけじゃなくて、社会や政治について考えさせてくれる】
日本のドラマが大きく後れをとっている部分です。野木さんは、元々、ドキュメンタリー制作会社の出身。“社会問題を扱いつつ、エンタメ性の高いドラマを作りたい”という志を持っていることがわかります。
#MIU404 第11話『ゼロ』最後までご覧くださりありがとうございました。新井Pチョイスの台本カラーは未来。推し塚原シーンは屋形船。
— 野木亜紀子 (@nog_ak) September 4, 2020
伊吹も志摩も桔梗も陣馬も九重も、今日もどこかで働いています。混迷と苦難の時代ではありますが、小さな正義を重ねた先に、きっと。(脚本担当:野木) pic.twitter.com/dmTkHWysBv
私たちも考察合戦に終始するだけでなく、作品の描くテーマ・根底にある社会問題に、もっと目を向ける必要があるのではないでしょうか。