カンヌ映画祭の歴代受賞作品の中から、「パルムドール」受賞作品と「グランプリ」受賞作品に限定して、計18本 選出。今回は【中級編】と題し、ややマニアックなおすすめ映画を8本ご紹介します。
【入門編】では、「パルムドール」と「グランプリ」の違いについても書いています。
カンヌ映画祭の受賞作品は、「インディペンデント系映画」や「アート系映画」が好きな人と相性がいい!
◆ カンヌ映画祭の受賞作品の傾向 ◆
- 革新的なカメラワークや編集技術を駆使した作品
- 社会的な問題や人間心理を深く掘り下げたような作品
監督の作家性が強いインディペンデント映画(=独立系)や、新しい表現を追求したアート系映画が、カンヌでは受賞しやすいです。エンタメ作品がずらりと並ぶアカデミー賞とは、大きく異なります。
本ページでご紹介する8本も、決してわかりやすいエンタメ作品ではありません。
観るのに集中力が必要だったり、好き嫌いがはっきり分かれる作品だったりします。それでも、人によっては“人生を変える一本”になる可能性もあります。
【中級編】カンヌ映画祭 歴代の受賞作品「おすすめ8選」
1.『父 パードレ・パドローネ』(1977年)
ストーリー
6歳のカヴィーノの父親は、暴君のような男だ。カヴィーノは小学校の教室から引きずり出され、羊の世話を手伝わされるのだった。虐待気味の父親に育てられ、会話もどもりがちだったカヴィーノは、兵役に服するため、陸軍に入る。
軍で電子工学やクラシック音楽に興味をもったカヴィーノは・・・
見どころ
学校教育を受けられず、どもり気味だった少年が「言語学者」になるという、人間の可能性を感じさせてくれる作品。
ずっと虐待していた父に、大人になって初めて反抗するカヴィーノ。筆者はこのシーンを見たとき、涙が止まりませんでした。
2.『木靴の樹』(1978年)
ストーリー
19世紀末、北リタリアの農村。貧しい小作農のバティスティ一家は、幼い息子・ミネクを学校に通わせることにする。しかし、学校までは長い道のりを歩かねばならない。父親はポプラの樹を切り倒し、ミネクに新しい木靴を作ってあげるが・・・
見どころ
貧しい小作農の4家族が、けん命に生きる姿をドキュメンタリータッチで描くいています。ミニマムな世界に焦点をあてながら、時おり差し込まれる美しい風景。
環境ビデオのような地味な画が続くと思ったら、いつの間にか「ささやかな幸せ」を感じているという、不思議な作品です。
3.『アンダーグラウンド』(1995年)
ストーリー
第2次大戦中、1941年のベオグラード。共産党員のマルコは親友のクロとともに、ナチス・ドイツに抵抗。マルコはクロや避難民を地下にかくまいながら、武器を作らせては売りさばいてゆく。マルコは戦争が終わったことを地下の住人に隠しながら、富と名声を築いてゆくが・・・
見どころ
監督は、ユーゴスラヴィア紛争を“当事者”として体験したエミール・クストリッツァ。
独立して自由を手に入れることが、本当に幸せなのか?
国際社会の常識をひっくり返す、批判精神。“地下で50年暮らす”という、大胆な発想。ファンタジックな表現力。耳から離れない、ジプシー音楽(※)。すべてが型破りです。
(※ ドラクエⅣの4章のような曲)
歴史を知らなかったとしても、作品が発散するエネルギーに圧倒されます。
下記の記事は、『アンダーグラウンド』が2022年にNHK BSで放送されたときに書いたものです。TV放送は終了していますが、“どこが凄いのか”を解説しています。
4.『スウィート ヒアアフター』(1997年)

ストーリー
カナダの小さな田舎町で、子供たちを乗せたスクールバスが転落。多くの子供たちの命が奪われた。町にやってきた弁護士・スティーブンスは集団訴訟を起こすため、犠牲者の親たちを訪ねて回る。
しかし、事故の唯一の生き残りで、車いす生活を強いられる少女・ニコルの証言で、事態は思わぬ方向へ進んでゆき・・・
見どころ
過去と現在をシャッフルしながら、住民たちの“他人には見せたくない顔”があぶり出されてゆきます。
どれを先に提示して、どれを後に見せるか?
エピソードを語る順番を綿密に計算し、主要キャラクターの印象すらガラッと変えてしまう構成力に脱帽です。主人公の弁護士のエゴがむき出しにされてゆく脚本には、鳥肌が立ちます。
5.『ある子供』(2005年)

ストーリー
仲間と泥棒をしていた20歳の青年・ブリュノは、18歳の恋人・ソニアとのあいだに赤ちゃんを授かる。だが、父親になった実感がもてないブリュノは、ソニアに頼まれても仕事を探そうとしない。それどころか、赤ん坊の世話を頼まれたブリュノは、闇取引で赤ん坊を売り払ってしまい・・・
見どころ
「貧しい人たち」「社会で虐げられている人たち」を厳しくも温かな眼差しで描く、ベルギーの巨匠・ダルデンヌ兄弟。
貧しい人たちにこそ、希望を見せたい。
来日したときにインタビューで語った言葉が、忘れられません。
富を持つ者と持たざる者・・・社会の二極化が進んでいる今、ダルデンヌ兄弟のような映画作家がもっと注目されてほしいと感じます。
6.『たかが世界の終わり』(2016年)

ストーリー
劇作家として成功した34歳のルイは、12年ぶりに実家を訪ねる。母・マルティーヌは手料理を用意してくれ、妹のシュザンヌははしゃいで出迎えてくれた。
しかし、ルイが家族に興味を持っていないと感じていた兄・アントワーヌは、不満をためており・・・
見どころ
わだかまりを持った家族の、気まずい再会劇。誰もが不満を抱えており、それが暴発する危険を持った空間は緊張感にあふれています。
19歳で『マイ・マザー』(2009)を監督し、注目作家となったグザヴィエ・ドランによるホームドラマ。
- V・カッセル(『クリムゾン・リバー』)
- M・コティヤール(『エディット・ピアフ〜愛の讃歌〜』)
- レア・セドゥ(『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』)
といった、人気俳優の“感情むき出しの演技”を見られるのも、おすすめポイントです。
7.『TITANE/チタン』(2021年)
ストーリー
幼いときに父の車の運転を邪魔したアレクシアは事故に遭い、頭蓋骨にチタンプレートを埋め込まれます。成人しても心が満たされないアレクシアは、自分に寄ってくる男女の命を奪い、車に性的興奮を覚えるようになります。
追われる身になったアレクシアは、失踪した青年・アドリアンになりすまし、彼の父・ヴァンサンに近づきますが・・・
見どころ
まず、「痛い描写」が苦手な人は、やめたほうがいいです。肉体を傷つける表現があって、見る人を選びます。また、車と“愛し合う”アレクシアは、感情移入が難しい主人公です。
しかし、この作品を
父の愛が欲しかった少女と、息子を失った悲しみから立ち直れない中年男が、“愛を埋め合う映画”
と捉えると、見えかたが180度変わってきます。
“誰にもわかってもらえない孤独”を抱えている人には、心にぶっ刺さる可能性もあります。
作風は、鬼才デヴィッド・クローネンバーグに似ています。ただ、「変態性」を乗り越えたところに、かすかな希望を感じさせるのがジュリア・デュクルノーの特異な作家性です。
8.『落下の解剖学』(2023年)
ストーリー
人里離れた、雪山の山荘。ベストセラー作家のサンドラが取材を受けていると、上階から轟音が響き、取材は中止となる。視覚障害のある息子・ダニエルは、転落死したと思われる父・サミュエルの遺体を見つける。
サンドラは夫殺しの容疑者となり、裁判にかけられるが・・・
見どころ
導入は、「ミステリー」仕立て。しかし、本当に伝えたいのは、“誰が犯人か?”ではありません。
夫はフランス人、妻はドイツ人。普段の会話は英語。ともに暮らす夫婦でもお互いがよくわかっていないのに、裁判やマスコミの取材がかんたんに真相に迫れるのか?
「風刺」や「ブラック・ユーモア」が好きなカンヌが、いかにも選びそうな一本です。
カンヌ映画祭の歴代受賞作品の中から、作家性の強いおすすめ映画をご紹介しました。
8本のうち、『落下の解剖学』や『TITANE/チタン』など近年の作品は、U-NEXT (ユーネクスト)やAmazonプライムビデオでネット視聴できます。
(※ 公式サイトの検索フォームでググれば、配信作品を確認できます)
ただ、古い映画は動画配信では視聴できません。DVDの宅配レンタルサービス、【TSUTAYA DISCAS】 (ツタヤ ディスカス)のご利用がおすすめです。
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他の記事内でも、カンヌ映画祭の受賞作をご紹介しています。
「ミニシアター系洋画の名作8選「エンタメ作品はもう飽きた」というあなたへ」の記事では、カンヌの受賞作を1本だけ紹介しています。
- 『ユリシーズの瞳』・・・1995年のグランプリ
「ヨーロッパ映画を配信で見るならU-NEXT!見放題で視聴できるおすすめ20選」の記事では、以下の2つの受賞作をご紹介しています。
- 『パリ、テキサス』・・・1984年のパルムドール
- 『CLOSE/クロース』・・・2022年のグランプリ