旧ユーゴスラヴィアの激動の歴史をフィクションを交えて描く、映画『アンダーグラウンド』が、NHKのBSプレミアムで放送されます。
「20世紀ベスト10に入る映画だ!」「いや、生涯No.1だよ」
と、映画評論家たちも絶賛しています。
この記事では、映画『アンダーグラウンド』のあらすじと、旧ユーゴスラヴィアの歴史的背景をお伝えします。また、この映画の何がスゴいのか、解説してゆきます。
- 映画『アンダーグラウンド』BSプレミアムでのテレビ放送は,いつ?
- 映画『アンダーグラウンド』あらすじ:避難民たちをだまし、地下で50年間も武器を密造させる!
- 考察:【何がスゴいのか?】ユーゴ内戦を,強烈なブラックユーモアで描く
- 考察:【何がスゴいのか?】耳をつんざくジプシー音楽、神演出がスゲェ!!
映画『アンダーグラウンド』BSプレミアムでのテレビ放送は,いつ?
『アンダーグランド』は1995年の映画。親友をだまして共産党の幹部に登りつめてゆく男の半生を、ユーゴスラビアの歴史に絡めて描きます。
映画『アンダーグラウンド』 | |
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原題 | Underground |
製作 | 1995年 |
製作国 | フランス、ドイツ、ハンガリー、ユーゴスラヴィア、ブルガリア |
ジャンル | 戦争ドラマ、政治風刺コメディ |
上映時間 | 170分 |
監督 | エミール・クストリッツァ(『パパは、出張中!』『黒猫・白猫』) |
音楽 | ゴラン・ブレゴヴィッチ |
受賞歴 |
カンヌ映画祭 パルム・ドール(=最高の賞) |
出演 | ミキ・マノイロヴィッチ、ラザル・リストフスキー、ミリャナ・ヤコヴィッチ |
13:00 ~ 15:51
たとえるなら、ゴルゴンゾーラ・チーズ。クセが強すぎて、好き嫌いがわかれます。でも、ヨーロッパ映画を抵抗なく見られるなら、“人生ベスト10”に入る可能性あり。
映画『アンダーグラウンド』あらすじ:避難民たちをだまし、地下で50年間も武器を密造させる!
1941年。ナチスに侵攻されたベオグラード(現・セルビアの首都)。
共産党員のマルコは電気技師のクロを入党させ、パルチザン(=解放軍)の中で頭角をあらわしてゆきます。
ベオグラードはナチスから爆撃を受け、焼け野原となってしまいます。マルコは弟のイヴァンや親友のクロ、避難民たちを地下へかくまい、武器の密造を手伝わせます。
さて、マルコとクロは女優のナタリアに憧れていました。障害者の弟がいるナタリアは、ナチスの将校・フランツと付き合っています。
クロはナタリアを奪還しようとしますが、ナチスに捕われ、拷問を受けます。マルコは医師に変装し、クロを救出!しかし、戦闘でケガを負ってしまったクロは、地下で静養することになります。
その頃。
地上では、チトー大統領のもと、ナチスとの戦争を勝ち抜いた解放軍は【ユーゴスラヴィア社会主義連邦共和国】を建国します。マルコもチトーの側近として出世します。
そのいっぽう。マルコは、クロや地下の住民に対しては、
「ナチとの戦争はまだ続いている」
と嘘をつきます。彼らに地下生活をさせたまま、何十年も武器を密造させていたのです・・・
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考察:【何がスゴいのか?】ユーゴ内戦を,強烈なブラックユーモアで描く
映画『アンダーグラウンド』の本当の凄さは、ユーゴスラビアの歴史を知らないと伝わりません。歴史の流れを説明します。
ユーゴスラビアはもともと多民族国家で、つねに分裂の危険性をはらんでいました。
それでも、カリスマ的指導者・チトーのおかげで、どうにか1つの国としてまとまっていたのです。
ところが、1980年にチトーが亡くなると、各民族が独立をめざして、あちこちで内戦が起きます。特に悲惨だったのが、1992年から1995年まで続いたボスニア紛争です。
ボスニアには、ムスリム人・セルビア人・クロアチア人という異なる民族が暮らしていました。
「独立したいムスリム・クロアチア人」 VS「阻止したいセルビア人」
という血みどろの戦いがくり広げられます。ちょっと前まで隣人だった者どうしが、“民族が違う”だけで殺し合いを始めたのです。
『アンダーグラウンド』の終盤。
マルコに裏切られた親友のクロや弟のイヴァンは、マルコに報復しようとします。これは、「セルビア人」VS「クロアチア人」のメタファー(隠喩)となっています。
映画『アンダーグラウンド』の素晴らしさ。
それは、「立場が変われば、見方も変わる」と教えてくれるところ。国際社会とはまったく異なる価値観があることを、私たちに知らしめてくれるのです
クロアチアが独立しようとしたとき、NATOはクロアチアを支援しました。独立を止めようとする“セルビア=悪”というイメージを、国際社会に植え付けようとしたのです。
しかし、サラエボ出身のエミール・クストリッツァ監督は、“分裂=祖国が失われてしまった”という当事者ならではの見方を示します。
分断されていなければ、別の民族とひとつの国のなかで暮らせていたかもしれない・・・そんな監督の想いが、伝わってきます。
冷戦時代、東側諸国と西側諸国の“中立地帯”だった旧ユーゴスラヴィア。
周辺のヨーロッパ諸国にとっては、ユーゴ内に軍事拠点をおければ、この地域で優位に立てます。決して、人道的な理由だけで独立を支援したわけではないのです。
عندهم المخرج العظيم أمير كوستاريكا مخرج فيلم Underground 1995 الي لا زلت اقول انه افضل فيلم هزلي تم صنعه https://t.co/pXGUJYI6wg pic.twitter.com/WSywlPkLpD
— Leo (@LastLoay) December 2, 2022
『アンダーグラウンド』では劇中、記録映像が出てきます。あれはただの引用ではありません。
- ナチスよりNATOの空爆のほうが激しかったこと
- 国際社会が“独裁者”とみなしていたチトーの葬儀に、東西を問わず、各国の首脳が参列したこと
を示唆しています。これは、“セルビア=悪”と決めつけたヨーロッパに対する皮肉でもあるのです。
考察:【何がスゴいのか?】耳をつんざくジプシー音楽、神演出がスゲェ!!
作曲を担当したのは、映画音楽家ゴラン・ブレゴヴィッチ。
とにかく大音量で、耳をつんざくジプシー音楽が頭から離れません。初めて『アンダーグラウンド』の曲を聴いたとき、あまりの中毒性にサントラを手放せませんでした。
そして、エミール・クストリッツァの神演出。ダヴィンチの「最後の晩餐」やシャガールの「結婚式」など、名画を思わせるような構図が登場します。
Rewatching Underground (1995) pic.twitter.com/Ee4y8C5L8B
— The Kino Corner (@thekinocorner) September 10, 2022
セリフではなく、映像に伏線を張っているのもスゴい。前半の演出が、“形を変えて”後半に登場します。
- 電線をかみ切るクロ ⇨ ??
- ふざけて、首吊りのマネごとをするイヴァン ⇨ ??
- 踊りながら回るマルコとナタリア ⇨ ??
鳥肌が立つ、なんてレベルじゃない。演出がスゴすぎて、おしっこ漏らしそう!