毎年5月にフランス南部の都市・カンヌで開かれる国際映画祭が、カンヌ映画祭です。
ヴェネチア映画祭・ベルリン映画祭と並ぶ「世界三大映画祭」のひとつで、米国アカデミー賞以上に受賞の重みがあると言われています。
この記事では、カンヌ映画祭の歴代 受賞作品から、おすすめ映画をご紹介。
「パルムドール」受賞作品と「グランプリ」受賞作品の中から16本を厳選し、2回にわたって魅力を伝えてゆきます。
今回は【入門編】と題して、あまり映画に詳しくない人でも見やすい8本をご紹介します。
カンヌ映画祭「パルムドール」と「グランプリ」の違いとは?
まず、カンヌ映画祭の各賞が、現在(2025年)と同じ呼び方になったのは1990年からです(それまでは、パルムドールとグランプリの定義があいまいでした)。
現在のカンヌ映画祭では、最高の賞が「パルムドール」で、惜しくも最高賞に届かなかった特別賞が「グランプリ」という位置づけです。
賞の名前 | 位置づけ | どんな賞? | 例えるなら… |
---|---|---|---|
パルム・ドール | 最高賞(1位) | その年のカンヌで最も優れた映画 | 金メダル/優勝 |
グランプリ | 次点(2位) | 審査員が特に評価した準グランプリ | 銀メダル/準優勝 |
もう少し説明すると、「パルムドール=1位」と「グランプリ=2位」という単純な区分けでもないんです
パルムドール受賞作は、「鋭く社会批判をしている作品」や、「実験的な表現をした作品」が選ばれやすい傾向にあります。
前者の代表例が『わたしは、ダニエル・ブレイク』(失業給付制度の不備)や『万引き家族』(貧困による孤立)であり、後者の代表例が『パルプ・フィクション』(時系列シャッフル)、『エレファント』(長回しでドキュメンタリー風)です。
いっぽう。グランプリ受賞作はパルムドールに比べれば、“誰が見てもわかりやすい作品”が選ばれやすいです。『ニューシネマ・パラダイス』や『ライフ・イズ・ビューティフル』などは、その典型例といえるでしょう。
一般受けがいいのは、実はグランプリ受賞作のほうだったりします
【入門編】カンヌ映画祭 歴代の受賞作品「おすすめ8選」
1.『タクシードライバー』(1976年)
ストーリー
大都会、ニューヨーク。海兵隊員のトラヴィス(ロバート・デ・ニーロ)はベトナム戦争から帰還し、タクシー会社に就職する。社交性に欠ける孤独なトラヴィスだったが、選挙事務所に勤務する美女・ベッツィー(シビル・シェパード)に惹かれる。
ベッツィーをデートに誘うトラヴィスだが、思うように事が運ばず・・・
見どころ
ベトナム帰還兵が抱えるPTSDや、社会にうまく適応できない青年の孤独を描き、観る者に衝撃を与えた一本。
“社会の病理をあぶり出した”という意味では、1982年の『キング・オブ・コメディ』(こちらもデ・ニーロ主演)や2019年の『ジョーカー』にも通じるものがあります。
2.『地獄の黙示録』(1979年)
ストーリー
1969年、ベトナム戦争末期のサイゴン。米陸軍のウィラード大尉(マーティン・シーン)は、カーツ大佐(マーロン・ブランド)の抹殺命令を受ける。カンボジアに赴任したカーツ大佐は、上層部の命令を無視して、ジャングルの奥地で【みずからの王国】を築き上げたという。
ウィラード大尉は若い兵士たちと現地に向かうが、“戦場の狂気”を目の当たりにして・・・
見どころ
サーフィンをするために、敵部隊を焼き払うキルゴア中佐(ロバート・デュヴァル)。ドラッグ漬けになってゆく、河川哨戒艇の乗組員。まるでカーニバルのような凄まじい狂気の連続に、ウィラード大尉でなくてもカオスに引きずり込まれてゆきます。
撮影監督ヴィットリオ・ストラーロによる、黄色(ナパーム弾)と緑(ジャングル)を基調とした色彩感覚にも一見の価値があります。
3.『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989年)
ストーリー
シチリア島にある、さびれた映画館【パラダイス座】。映画好きな少年・サルバトーレ(サルヴァトーレ・カシオ)はこの映画館に入り浸っており、映写技師のアルフレード(フィリップ・ノワレ)に可愛がられていました。
やがて、サルバトーレはアルフレードの仕事を手伝うようになりますが、可燃性のフィルムが燃えて【パラダイス座】は大火事になり・・・
見どころ
映画愛にあふれ、全世界をさわやかな感動で包んだ名作。オールタイムベストに挙げる映画ファンも多いです。
有名な外国映画なので、一度は見たことがある人もいるでしょう。
しかし、『ニュー・シネマ・パラダイス』には、「通常版」とは異なる「完全オリジナル版」という別バージョンも存在します。
通常版と完全オリジナル版は、“まったく印象の異なる映画”です
まだ見たことがない人には「通常版」がおすすめですが、一度見た人も「完全オリジナル版」を見ておいて損はないです。
4.『さらば、わが愛/覇王別姫』(1992年)

ストーリー
1924年、北京。京劇の養成所に引き取られた小豆(シートウ)は、年上の石頭(シャオトウ)と仲良くなります。小豆は、石頭に同性愛に近い“恋慕の情”をいだくのでした。
やがて、厳しい修行に耐えて、それぞれテイエイーとシャオロウという芸名を与えられた2人は、京劇「覇王別姫」(はおうべっき)を演じる名パートナーとなります。
しかし、日中戦争の激化、共産党政権の樹立といった歴史の転換点が2人の運命をも変えてゆき・・・
見どころ
時代や国家をめぐる歴史の激動と、京劇役者たちの愛と憎しみ――個人を通して時代を再解釈すると構成力と、京劇の映像美が圧巻です。
「うまく言葉にできないけど、すごいものを観た」
そんな感想を抱く人が少なくありません。 映画が“総合芸術”と呼ばれる意味を、まさに体感できる作品です。
5.『ライフ・イズ・ビューティフル』(1997年)

ストーリー
第二次大戦 直前の1939年、北イタリア。この地を訪れたユダヤ系の青年・グイド(ロベルト・ベニーニ)は、小学校の教師・ドーラ(ニコレッタ・ブラスキ)にひと目ぼれします。猛アタックの末、ドーラと結ばれたグイドは、ジョズエという息子を授かります。
一家は幸せに暮らしていましたが、ユダヤ人に対する迫害が色濃くなり、3人は強制収容所に送られてしまいます。
「いいかい。これはゲームだ。ママに会いたがったり、泣いたりしたら減点だよ」
グイドは息子に恐怖を感じさせないため、強制収容所での生活をゲームに見立てますが・・・
見どころ
『ニュー・シネマ・パラダイス』と並んで映画ファンからの人気が高い、戦争ドラマ。何があっても、かわいい息子を守ろうとする父親の姿に感動します。
どんなにつらいことがあっても、“心の持ちよう”によって前向きに生きられる、と教えてくれます。
6.『戦場のピアニスト』(2002年)

ストーリー
1939年。ポーランドに、ナチスドイツが侵攻してきます。ユダヤ人ピアニスト、シュピルマンが住むワルシャワもナチスに占拠され、ユダヤ人に対する迫害も強まります。
1942年。シュピルマンの家族は収容所に送られますが、シュピルマンだけは運よく収容所行きをまぬがれます。隠れ家でひっそり生活するシュピルマンでしたが、ドイツ人将校とバッタリ会い・・・
見どころ
ユダヤ系ポーランド人、ウワディスワフ・シュピルマンの体験記を脚色。強制収容所に閉じこめられた経験を持つポランスキー監督が、メガホンをとっています。
映画や小説の世界では、とかくナチスを“悪者”に描きがちです。しかし、あたりまえですが、ナチスの中にも利己的な人もいれば博愛主義的な人もいます。
人間性に「国籍」は関係ないことを教えてくれる、戦争ドラマの佳作です。
7.『オールド・ボーイ』(2004年)

ストーリー
平凡なサラリーマンのオ・デス(チェ・ミンシク)は、泥酔しているところを何者かに拉致され、小さな部屋に閉じこめられます。理由もわからないまま15年(!!)も監禁されたデスは、ある日、何の説明もなく解放されます。
復讐に燃えるデスは知り合いの女性・ミドの助けを借り、自分を監禁した相手を探しますが・・・
見どころ
原作は、土屋ガロン原作・嶺岸信明 作画による日本のマンガ、『ルーズ戦記 オールドボーイ』。
ストーリー展開も凄いのですが、鬼才パク・チャヌクによるバイオレンス表現がエグいです。観るのに勇気が必要ですが、間違いなく傑作。2013年には、ハリウッドでリメイクされています。
8.『パラサイト 半地下の家族』(2019年)

ストーリー
父ギテク、母チュンスク、息子ギウ、娘ギジョン。貧しいキム一家は、薄汚れた半地下のアパートで暮らしています。ある日のこと。長男のギウは、友人から家庭教師のアルバイトを紹介されます。
勤務先はIT企業の社長パク・ドンイクの豪邸で、ギウはパクの娘の家庭教師を任されます。やがて、キム以外の3人も、身分を隠してパクの豪邸で働くことになり・・・
見どころ
1955年の『マーティ』以来、カンヌ映画祭パルムドール&アカデミー作品賞をW受賞した韓国映画です。
人間ドラマ? サスペンス? ブラック・コメディ?ホラー?
“富裕層と貧困層の二極化”という社会的テーマを扱いながら、どんなジャンルにも縛られない、唯一無二のバランス感覚をもった作品です。
「これはサスペンス」「これはコメディ」と決まっていれば、観客はあらかじめ“心の準備”ができるものです
しかし、『パラサイト』には、ジャンルの境界線が存在しません。その「正体不明さ」が不安と緊張を生み、観客を離さないのです。
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