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『暗殺の森』解説&考察【洞窟の比喩が意味するものとは?撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの凄さとは?】

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『暗殺の森』解説&考察【洞窟の比喩が意味するものとは?撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの凄さとは?】

この記事では、映画『暗殺の森』で描かれるファシズムについて解説し、劇中に登場するたとえ話「洞窟の比喩」について考察してゆきます。

『暗殺の森』NHK BS「プレミアムシネマ」での放送(2025)はいつ?

『暗殺の森』は1970年のイタリア映画。
ファシズムが吹き荒れる第二次大戦前夜。ファシスト党にのめり込んでゆく青年のてん末を描く、人間ドラマです。

映画『暗殺の森』概要
原題 Il conformista
ジャンル 人間ドラマ
上映時間 95分

監督・脚本

ベルナルド・ベルトルッチ(『ラストエンペラー』)
原作 アルベルト・モラヴィア「孤独な青年」
撮影監督 ヴィットリオ・ストラーロ(『地獄の黙示録』)
音楽 ジョルジュ・ドルリュー(『軽蔑』『ジャッカルの日』)
出演

ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ

レビューの平均評価(★5つ満点)

フィルマークス:★★★★☆ 3.9

Yahoo!映画:★★★★☆ 3.7

Amazon:★★★★☆ 4.0

映画『暗殺の森』のテレビ放送は、2025年2月26日(水)。NHK BSの「プレミアムシネマ」にて。
13:00 ~ 14:55

>>【放映カレンダー】TV映画(BS・地上波) - 映画ときどき海外ドラマ

【どんな話?】『暗殺の森』あらすじ

1938年。哲学講師のマルチェロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)は、友人の仲介でファシスト組織のメンバーになります。

13歳のころに同性愛者の青年に襲われたマルチェロは、その体験がトラウマになっています。

けっして異端者にはなるまい

という考えを持つマルチェロはファシズムを受け入れ、中間層の娘・ジュリアと婚約します。

 

 

さて、マルチェロはファシスト党から指令を受けます。大学時代の恩師でパリに亡命した反ファシスト派のクアドリ教授を監視するように、命じられたのです。

 

新妻ジュリアを連れてパリに旅立ったマルチェロは、クアドリ教授の若い妻・アンリ(ドミニク・サンダ)に魅了され・・・

【考察】洞窟の比喩が意味するものとは?

ファシズムとマルチェロのスタンス

第一次大戦後のイタリアは、不況やストライキで国内が混乱していました。

ムッソリーニは「国家による経済統制」を掲げ、初期の頃はむしろ下層階級や小地主、民兵といった層からも支持を集めていました。

暗殺の森、ファシズム、ムッソリーニ

マルチェロが傾倒したファシスト党は

弱い人の生活は守るけど、「言論の自由」は許さない

という理念を持っていました。

「洞窟の比喩」が意味するものとは?

56分30秒

マルチェロは、大学時代の恩師・クアドリ教授と会話します。パリに亡命し、反ファシズムの立場を取る教授は、思想的にはマルチェロと対立する存在です。

 

マルチェロは、かつてクアドリ教授が話してくれたたとえ話を回想します。

「大きな洞窟を想像しなさい。中には子どもの頃から住んでる人々がいる。
鎖でつながれ、奥しか見られない。彼らの背後には、明るい炎が燃えている

彼らと炎のあいだには壁がある。人形劇の板仕切りのような壁だ

 

仕切り壁の外には別の人々がいて、木と石でできた像を持ってる。
像は仕切りの壁より背が高い」

 

洞窟に映る炎の影。

 

クアドリ教授「プラトンの“洞窟の囚人”か。彼らが見るものは?」

マルチェロ「炎の影だけです。洞窟に映る炎の影。」

 

クアドリ教授「事物の投げる影だ。イタリアで君たちの身にも起こってる」

マルチェロ「洞窟の人々が話せたら、彼らの幻覚を“現実”と呼ぶのでは?」

 

クアドリ教授「現実の影を現実と思いこむ」

 

「洞窟の囚人」とは、ギリシャの哲学者・プラトンが著作『国家』にてイデア論を説明するときに用いた思考実験です。

 

「洞窟の比喩」について、「ズノウライフ」というサイトで、画像付きでわかりやすく説明してくれています。

【参考】プラトンのイデア論「洞窟の比喩」とは?図と具体例でわかりやすく解説!| ズノウライフ

 

生まれた時から洞窟に閉じこめられている囚人は、縛られていて後ろをふり返ることができない。囚人たちの背後には炎が灯されているが、囚人と炎のあいだに仕切り壁があって、炎の存在を知らない。

 

炎は人形を照らしている。しかし、壁に映る人形の影しか見えない。

 

暗殺の森、囚人の比喩

人たちは壁に映っている影を、世界の真実だと思いこんでしまっている

と、いうたとえ話です。

 

 

当時のフランスはファシズムが抑えこまれ、人民戦線内閣が組織されていました。パリに住むクアドリ教授は、イタリアを俯瞰して見ています。

クアドリ教授は、イタリアのファシスト組織にいるマルチェロには「世界が見えていない」と伝えたいのです。

 

マルチェロと教授のシーンには、監督ベルナルド・ベルトルッチの演出と、それを実現させた撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの凄さもうかがえます。

 

というのも、マルチェロとクアドリ教授のやり取りのあいだ、ずっとマルチェロには光があたっていて、クアドリ教授は影に隠れたままです。

 

ところが、会話が終わり、カーテンがひらかれた瞬間!

マルチェロは影に覆われ、マルチェロの影が壁に映ります。

 

まるで洞窟の仕切り棒が取り除かれたように、光と影が逆転するのです。

 

マルチェロは自分が洞窟の外に出て、世界を知ったつもりでファシスト党を支持していました。

しかし、実は洞窟の中にいたのはマルチェロのほうだ、という皮肉になっています。

君が信じているファシズムこそ、壁に映った影なのだ

と。

【解説】撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの凄さとは?

撮影監督ヴィットリオ・ストラーロの凄さについては、ヤフー知恵袋に素晴らしい解説があったのでリンクを貼っておきます。

【参照】暗殺の森のヴィットーリオストラーロの撮影はどうすごいのですか? - Yahoo!知恵袋

(出典:Lost In Film on X )

 

補足すると、ヴィットリオ・ストラーロは劇作家ゲーテの「色彩理論」を学んでいたそうです。(※ ゲーテは『若きウェルテルの悩み』の作者でもある)

【参照】有名な文学者ゲーテは色の研究もする科学者だったって、ほんと? | キヤノンサイエンスラボ・キッズ | キヤノングローバル

 

「色彩理論」は、色が人間の感情に影響をおよぼすという理論。

  • ファシズムと反ファシズムの対立
  • イタリアとパリ
  • アンナとジュリア

対立構造にある二者に対極的な色を使ったり、主人公の心境の変化を光と影の陰影で表現したり・・・色彩が映画全体をコントロールような凄みがあります。

 

ヴィットリオ・ストラーロはアカデミー撮影賞を獲った2作品でも、巧みに色を使い分けています。

  • 『地獄の黙示録』・・・ナパーム弾の黄色とジャングルの緑
  • 『ラストエンペラー』・・・赤と黄色にさらされる皇帝

 

(出典:Marc on X、『ラストエンペラー』より)

おわりに

先日、『エル・スール』の解説&考察記事を書いたら、ビビるぐらいアクセスがきました。洋画離れが叫ばれる中、外国の芸術映画に興味を持ってくれる人がいて、素直にうれしいです。

 

テレビでミニシアター系映画が放送される機会があれば、理解を助けられるような発信をしていきたいと思います。

 

www.entafukuzou.com

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