ブラッド・ピット主演の『ファイトクラブ』を観て、ラストの演出にビックリした人は多いでしょう。ナタリー・ポートマン主演の『ブラック・スワン』を観て、ホラー真っ青の演出にビビった人もいるでしょう。
でも、こういった衝撃的な映画をつくった監督たちに、多大な影響を与えた作品があります。それが、イングマール・ベルイマン監督の『仮面/ペルソナ』です。
ベルイマン監督の『仮面/ペルソナ』の概要
『仮面/ペルソナ』は、1966年に作られたスウェーデンの映画。舞台女優と看護婦が一緒に暮らしているうちに、ふたりの境界線があいまいになってゆく・・・という心理サスペンスです。
仮面/ペルソナ | |
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原題 | Persona |
製作国 | スウェーデン |
製作年 | 1966年 |
上映時間 | 82分 |
監督 | イングマール・ベルイマン |
脚本 | イングマール・ベルイマン |
出演 | ビビ・アンデショーン、リブ・ウルマン |
監督・脚本はイングマール・ベルイマン。スウェーデンを代表する映画監督で、彼の作品に影響を受けた映画監督はあげたらキリがありません。
スタンリー・キューブリック、ウディ・アレン、フェデリコ・フェリーニ、ギレルモ・デル・トロ、スティーヴン・スピルバーグ・・・
一見すると、ベルイマン作品はアート系映画です。しかし、実際はハリウッドの娯楽作品が彼の演出技法をことごとくマネしています。
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スピルバーグは、「彼の作品はすべて観た」とまで語っています。
『仮面/ペルソナ』のあらすじとレビュー
あらすじ
舞台女優のエリザベートは、仕事もプライベートも順調。人もうらやむような生活を送っていましたが、ある日、失語症を患ってしまいます。エリザベートは、海辺にある別荘で療養することにします。
彼女の世話をすることになったのが、看護師のアルマです。親しくなった二人は共同生活を始めます。最初は関係も良好。
ところが、アルマがエリザベートの手紙を盗み見たことをきっかけに、二人の関係は不穏な方向へ。お互いに執着するあまり、自意識の境界線が剥がれてゆくのでした・・・
強烈なモンタージュ! 彼女は分身?
映画の冒頭。映写機。男の下半身。クモのドアップ。少年。無関係のモンタージュ映像がつづきます。
なんじゃこりゃ?
訳はわからないが、あきらかに普通じゃない。
そして、女優と看護師の物語は始まります。看護師のアルマは、言葉を失ったエリザベート相手に、一方的にしゃべりつづけます。アルマは、エリザベートのような人に憧れていました。みんなの注目を浴び、退屈でない日常を送る女優へ憧れていたのです。
ところが、実はアルマのほうが性に奔放で、エリザベートは欲望を抑えて生きてきたことがわかります。価値の逆転が起きるのです。
ふだんは聴衆の前で役を演じていたエリザベートが聞き役にまわり、ふたんは観客だったアルマがひたすら喋っている。この構図も、すでに逆転現象をあらわしています。
観ているほうは、いつしか奇妙な感覚にとらわれます。
これは、よく似た二人の女の物語なのか? それとも同じ人物の二面性をあらわしているのか?
モチーフはユング心理学? 『ファイトクラブ』『ブラックスワン』への影響も
ユング心理学に、ペルソナという概念が出てきます。ペルソナとは、もともとは古代演劇で役者が付けていた仮面のこと。私たちも学校や会社、友だちの前や家族の前で、「仮面」を使い分けています。
この映画がユング心理学を下敷きに作られているのは、想像に難くありません。
そして、エリザベートとアルマの自意識が剥がれ、境界線があいまいになったところで、びっくり仰天の演出! どんでん返しとか、意外な結末とか、そういうレベルのびっくりではありません。
これか! 世界の映画人に影響を与えた神演出ってのは!
なかなかDVDが出ていなかったのですが、最近ようやく見られるようになりました。
『仮面/ペルソナ』の影響をあからさまに受けているのが、『ファイトクラブ』と『ブラックスワン』です。いずれも、“隠された自意識”がテーマになっていますので。
タルコフスキーやコッポラ、フェリーニといった巨匠が嫉妬したという、ベルイマン作品。映画好きなら、一度はチャレンジしてみて下さい。