人生が思い通りにいかないと、他人の成功がねたましくなります。コロナ禍の影響もあり、少しでも得をした人間を見つけては、袋叩きにするような風潮がまん延しています。
誰かに“言葉のナイフ”を向けたくなったら、観てほしい映画があります。ベルギー映画『トト・ザ・ヒーロー』です。
- 映画『トト・ザ・ヒーロー』の概要、公開日は?
- 映画『トト・ザ・ヒーロー』あらすじ
- 隠れた名作たる理由?『トト・ザ・ヒーロー』解説! ありえないシナリオの構成
- テーマは「人間賛歌」!それでも人生は素晴らしい!
映画『トト・ザ・ヒーロー』の概要、公開日は?
『トト・ザ・ヒーロー』は、1991年製作の映画。向かいの家の子どもと取り違えられた主人公が、成功した相手を恨み、復讐するまでを描いた人間ドラマです。
映画『トト・ザ・ヒーロー』 | |
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原題 | Toto le heros |
公開日 | 1991年5月16日 |
製作国 | ベルギー、フランス、ドイツ |
上映時間 | 92分 |
監督 | ジャコ・バン・ドルマル |
脚本 | ジャコ・バン・ドルマル |
出演 | ミシェル・ブーケ、ジョー・ド・バケール |
映画『トト・ザ・ヒーロー』あらすじ
病院で取り違え? 幼なじみに向けられた憎悪の理由とは?
老人ホームで暮らす高齢者・トマは、向かいの家に住むアルフレッドを心の底から憎んでいました。トマとアルフレッドの生い立ちが語られてゆきます・・・
・・・トマとアルフレッドは、同じ病院で同じ日に生まれました。ところが火事が起き、新生児室の二人は取り違えられ、まったく別々の人生を歩むことになったのです。
トマの家族は、飛行士のパパと優しいママ、美人の姉とダウン症の弟。つつましいながらも、幸せな暮らしです。トマの夢は、テレビのヒーロー『名探偵トト』となって、世界中を冒険することでした。
僕の大好きな姉を奪うな!
いっぽうのアルフレッドは、スーパーを営む裕福なカント家の子どもとなります。
あるとき。カント家の依頼で、トマのパパは商品を輸入するため、飛行機で外国へ向かいます。しかし、雷雨に見舞われ、パパは帰らぬ人となってしまいます。
そして、トマの姉が思春期になったとき。姉は、近所のアルフレッドと恋仲になります。姉のことが大好きだったトマは、アルフレッドに激しく嫉妬して・・・
隠れた名作たる理由?『トト・ザ・ヒーロー』解説! ありえないシナリオの構成
娯楽映画の基本は、“因果関係の連鎖”
エンタメ映画の脚本は、通常は「因果関係の連鎖」で成り立っています。たとえば、メル・ギブソン主演の『マッド・マックス』を例にとると・・・
暴走族のチームが、パトカーを奪って逃げる
⇨ 警官のマックスが追いかけると、暴走族のボスは運転をミスって事故死
⇨ 逆恨みした暴走族の生き残りは、警察署を襲い、マックスの仲間がやられる
⇨ 恐怖を感じたマックスは家族と休暇をとり、旅に出る
⇨ 暴走族一味がマックスの妻に絡んできて、妻は重傷を負う
⇨ 怒ったマックスは、改造車で一味を追う
前のシーンの出来事が主人公(または悪役)の感情を揺さぶり、それが目的を生み、次のシーンの行動へと繋がるのです。
実際の人生は、“偶然の連続”
『トト・ザ・ヒーロー』は違います。前後のつながりがないエピソードを時系列順に並べています。私たちの実際の人生のように、「偶然の連続」で映画が構成されているのです。
本来、「偶然の連続」で物語を作ると、主人公の目的やテーマが見えづらくなり、感情移入できなくなってしまいます。
そこで『トト・ザ・ヒーロー』は、導入部分をミステリー仕立てにしています。冒頭では、老人となったトマが、アルフレッドに拳銃を向ける場面が描かれます。
どうして、トマは幼なじみのアルフレッドを憎悪するようになったのか?
この謎がフックとなり、トマの怒りがどのように蓄積されていったのか、観客は推理しながら観ることができます。バラバラのエピソードを並べているのに興味が持続するという、珍しい構成となっているのです。
テーマは「人間賛歌」!それでも人生は素晴らしい!
他人にヘイトを向ける前に、自分の人生を肯定しよう
もし、病院で取り違えがなかったら、トマは裕福な家にもらわれていました。晩年になって老人ホームに入ることもなかったでしょうし、“最愛の人”である姉とは、姉弟としてではなく交際相手として関わることができたかもしれません。
“自分が歩むはずだった”人生を、謳歌している者がいる。トマはアルフレッドを激しく憎み、不幸な生い立ちだったことを嘆きます。
しかし、飛行士のパパ一家の子供として過ごしたからこそ、得られた幸せもあったのです。
この映画を最後まで観ると伝わってくるのは、どんな人生だって、素晴らしいものなんだよ、というメッセージです。
不朽の名作『素晴らしき哉、人生!』のファンタジックな進化系!
アメリカのドラマ映画に、『素晴らしき哉、人生!』(1946年)という名作があります。不運ばかりの人生に絶望した主人公が、天使の助けを借りて自分の半生を回想するうちに、人生の価値を見つめ直すお話。
誰だって幸せな時間を過ごし、誰かを幸せにしてきたのではないか?
そんなことを投げかけてくれる作品です。
『素晴らしき哉、人生!』も『トト・ザ・ヒーロー』も、テーマは人間賛歌。ただ、監督のセンスの違いから、まったく別の種類の映画に見えます。
『素晴らしき哉、人生!』のフランク・キャプラは、職人的な監督。ユーモアやヒューマニズムを織り交ぜながら、ていねいに物語ってゆくタイプの映画作家です。
これに対して、『トト・ザ・ヒーロー』のジャコ・バン・ドルマル監督は、天才的なビジュアル・センスの持ち主。音楽に合わせて花が踊ったり、ミニチュアの兵士が振動することで不穏な空気を出したり・・・
(⇦ 挿入歌として使われている、フランスのシャンソン歌手シャルル・トレネの『Boum!』が耳に残ります)
CMディレクターのように、セリフに頼らず映像で何がしかを伝えてくれます。ラストの演出には、ぶったまげました。冒険者に憧れていたトマが、思わぬ形で大冒険します。
こんな表現方法があるなんて!!!
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