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エリア・スレイマン監督の映画『D.I.』感想!シュールな笑いでパレスチナ問題を斬る!

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エリア・スレイマン監督の映画『D.I.』感想!シュールな笑いに潜む批判精神

漫才のボケとツッコミのように、全部セリフで説明してしまう・・・こんなコメディ映画が増えています。これがどうも苦手で、極力セリフを排し、絶妙な“間”で笑わせてくれる作品のほうが好みだったりします。

 

いま、気になっている映画作家がいます。エリア・スレイマン。

 

・現代のチャップリン

・ユーモアと憂鬱が同居する作風

 

そんな風に評される監督さんです。エリア・スレイマン監督の映画『D.I.』を観た感想です。パレスチナ問題をシュールな笑いで揶揄したコメディです。

 

エリア・スレイマン監督の国籍は? 映画『D.I.』の概要

 

映画『D.I.』は、2002年公開のフランス、モロッコ、ドイツ、パレスチナの合作映画。イスラエル軍の兵士が常駐する検問所を舞台に、抑圧されたパレスチナ人の日常をユーモラスに描いています。 原題の『 Divine Intervention』は、「神の介入、神の見えざる手」といった意味です。

映画『D.I.』
原題 Divine Intervention
公開年 2002年
製作国 フランス、モロッコ、ドイツ、パレスチナ
上映時間 92分
監督 エリア・スレイマン
脚本 エリア・スレイマン
出演 エリア・スレイマン、マナル・ハーデル

 

エリア・スレイマン監督は、1960年生まれ。イスラエルのナザレ(=キリストが幼少期を過ごした土地)で生まれ、21歳から10年ほどニューヨークに住んでいました。

 

その後、1994年にイスラエルの都市・エルサレムに移り住み、『消えゆくものたちの年代記』(1996年)で長編監督としてデビュー。

 

2002年に発表した『D.I.』が、カンヌ映画祭の審査員賞を受賞し、国際的に評価されます。

 

 

映画『D.I.』あらすじ

 

イスラエル領のナザレに住む父が倒れたと聞き、息子のE.S.(エリア・スレイマン)は東エルサレムから病院にかけつけます。父親は無事でしたが、問題が発生します。

 

E.S.には、パレスチナ自治区に住む恋人(マナル・ハーデル)がいました。イスラエルが実効支配しているラッマラーで暮らす恋人は、エルサレムに自由に入ることができません。許可証をもっていないからです。

 

E.S.と恋人は、イスラエルの兵士が常駐する検問所そばの駐車場で、デートを重ねるのですが・・・

 

 

 

映画 『D.I.』感想!シュールな笑いでパレスチナ問題を斬る!

 

前提となるパレスチナ問題!予備知識が必要かも

 

映画『D.I.』は、イスラエルが実効支配している地域に住むパレスチナ人が抱える鬱屈した思いを、ときにシュールに、ときに尖った表現で笑いにしています。

 

前提として、聖地エルサレムをめぐるパレスチナ問題がわからないと、理解が難しいかもしれません。

 

 

パレスチナ問題については、長い長い歴史的変遷があります。こちらのサイトさんで詳しく解説されています。

エルサレムはどこの国のものか?池上彰が解説 (1/2)| 介護ポストセブン

 

YouTube動画では、池上彰さんや中田あっちゃんを差し置いて、このチャンネルがわかりやすかったです。【高校生向けの政治・経済】をかみくだいて解説してくれるチャンネルさんです。

 

www.youtube.com

 

要約すると・・・

 

パレスチナ地域にある都市・エルサレムは、イスラム教徒(アラブ人)、ユダヤ教徒、キリスト教徒の聖地です。3つの宗教の教徒は、長いあいだ共存していました。

 

16世紀以降、エルサレムはオスマン帝国の一部となります。

 

やがて、アラブ人の民族主義が活発になります。同じ頃、ヨーロッパで迫害されていたユダヤ人は、パレスチナ地域に“自分たちの国を作ろう”と、この地へ移住する動きが盛んになります。

 

 

第一次大戦中、オスマン帝国と対立していたイギリスは、アラブ人(パレスチナ人)からも、ユダヤ人からも、仏・露からも協力を得ようとします。

 

  • アラブ人居住地の独立を支持する
  • パレスチナに、ユダヤ人国家(=イスラエル)を建設することを支持する
  • オスマン帝国を英・仏・露で分割し、パレスチナ地域を国際管理下に置くことにする

 

パレスチナ地域をめぐって、それぞれと矛盾する約束をしてしまったこと(=イギリスの三枚舌外交)が、中東問題がこじれた要因です。

 

 

そこから4度にわたる中東戦争を経て、現在はイスラエル(=ユダヤ人の国)がエルサレムを実効支配しています。名目上は、アラブ人(パレスチナ人)が居住する東エルサレムと、ユダヤ人が居住する西エルサレムに分かれています。

 

 

ヨルダン川西岸には、イスラエル軍の兵士が常駐する検問所が100近くあります。許可証を持っていないパレスチナ人は、検問所を出入りできません。映画『D.I.』では、この検問所が物語の舞台となっています。

 

シュールな笑いと突発的な笑い! 中東問題に対する機知にとんだ批判精神

 

映画『D.I.』のメインとなるのは、パレスチナ人カップルの悲哀。彼女がエルサレムに入ることができないため、検問所そばの駐車場でデートするしかない恋人たちの憂鬱やイラ立ちが描かれます。

 

ただ、このカップル以外に、不自由な思いをしているパレスチナの住民がたくさん登場します。彼らの群像劇でもあります。

 

  • 家庭ゴミを隣りの家に投げ込み、隣人からゴミを投げ返されたら、「隣人は敬うべきだ」とのたまうオッサン。
  • 自宅と公道のあいだに建てられたに怒り、ハンマーで叩き壊す中年男。
  • 少年のサッカーボールが敷地内に入ると、ナイフを刺して、ボールの空気を抜く男。
  • イスラエル軍兵士が銃を構える中、検問所を堂々と歩くパレスチナ人女性。サングラスを取ると、超美人! だまって銃を下ろす兵士たち。
  • イスラエルの警官に、道をたずねる女性。車両の後ろには、目隠しされ連行中のパレスチナ人が乗っていて、その男性が道を教えてくれる。

 

制限された中で暮らすパレスチナ住民はイライラが募っていて、隣人に対する心の余裕がありません。それを、絶妙の“間”で表現しています。なんともシュール。

 

そうかと思うと、

  • たかが1匹の蛇に、いきなり拳銃をぶっ放す男。
  • アンズの実を食べながら、車を運転するE.S.。食べかけのアンズを戦車に向かって投げると、爆発!!(=フラストレーションを抱える青年の妄想)

 

突発的な暴力のような笑いもあります。実につかみどころのないコメディです。

 

いずれにしろ、我慢を強いられるパレスチナ住民のゆがみを通して、イスラエルへの不満を表しています。機知にとんだ批判精神。監督の“センス”としか、言いようがありません。

 

 

ほとんどセリフによる説明がなく、主人公も無表情。作風は、北野武アキ・カウリスマキを思わせます。観る人を選びそうですが、ヨーロッパ映画好きな人はツボに入るかもしれません。

 

関連:オフビートな笑いが癖になる!ゆるいコメディ映画8選

 

 

そんなエリア・スレイマン監督の新作『天国にちがいない』が、2021年1月29日(金)から公開される予定です。

 

www.youtube.com

 

 

動画の中では、監督を評して、“現代のチャップリン”と形容していますが・・・チャップリンみたいなわかり易さは無いです。無表情な中に悲哀がある、という意味では古典映画の喜劇王・バスター・キートンに近い印象です。

 

こんな状況だけど、無事公開されるのかな?