「私は狂ってはいないのです。ですが、それがこの国では狂っているという事なのです」
思わせぶりなセリフと、観終わったあとに残る余韻。ヴェネツィア国際映画祭で銀獅子賞を獲った黒沢清 監督の『スパイの妻』が、テレビ放送されます。
この記事では、映画『スパイの妻』のあらすじと歴史的背景を解説。ネタバレしない範囲で、『スパイの妻』を楽しむための予備知識をお伝えします。
映画『スパイの妻』テレビ放送はいつ? ドラマ版との違いは?
『スパイの妻』は2020年の日本映画。
国家機密を世に知らしめようとする貿易商の男とその妻が、時代の波にのまれてゆく戦争ドラマです。
もともとは、NHKのBS8Kに向けて作られたテレビドラマ。映画版はスクリーンサイズと色調だけを変えたもので、内容はドラマ版と同じです。
映画『スパイの妻』 | |
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製作年 | 2020年 |
ジャンル | 戦争ドラマ、サスペンス |
上映時間 | 115分 |
受賞歴 | ヴェネツィア国際映画祭 銀獅子賞 |
監督 | 黒沢清(『CURE』『回路』) |
脚本 | 濱口竜介、野原位、黒沢清 |
出演 | 蒼井優、高橋一生、東出昌大 |
映画『スパイの妻』のテレビ放送は、2022年1月10日(月・祝)。NHKの総合テレビにて。
13:05 ~ 14:59
\地上波で初放送!/
— NHKドラマ (@nhk_dramas) December 24, 2021
ドラマ【#スパイの妻】
2022/1/10(月・祝)総合テレビ午後1:05~2:59#黒沢清 監督がベネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)を受賞した話題作!#蒼井優 #高橋一生 #東出昌大#濱口竜介 #長岡亮介https://t.co/z1XJRQt4fW
映画『スパイの妻』あらすじ【ネタバレなし】
太平洋戦争が始まる直前の、1940年。
貿易商といとなむ福原優作(高橋一生)とその妻・聡子(蒼井優)は、洋館で優雅な生活をおくっていました。優作の趣味は、9.5㎜フィルムで自主映画を撮ること。
洋風の生活をたしなみ、舶来品を楽しむ優作は、当局からもマークされる存在でした。
聡子の幼なじみで、陸軍の憲兵である津森泰治(東出昌大)は、目立った行動をつつしむように助言します。しかし、優作は聞き入れません。
あるとき、優作は甥(おい)の竹下文雄(坂東龍汰)とともに、満州へ出かけます。優作の帰国は予定よりだいぶ遅かったため、聡子は夫を不審に思います。
そんな中、聡子は、津森泰治に呼ばれ、夫にある疑惑がかかっていることを聞かされます。旅館「たちばな」の仲居だった草壁弘子(くさかべひろこ=玄理)が何者かに殺され、夫に嫌疑がかかっているというもので・・・
映画『スパイの妻』【わからないという人へ,序盤のストーリーを解説】
まず、歴史的背景です。
『スパイの妻』の冒頭は、1940年。日中戦争が長引き、アメリカやイギリスとの戦争を間近に控えた時期にあたります。
高橋一生が演じる福原優作は貿易商という仕事柄、「外国と通じているのではないか?」と日本軍からマークされる存在です。
《映画『スパイの妻』 舞台となる歴史的背景》
優作は仕事のため満州に出かけた際、驚愕の事実を知ります。
関東軍(※)が細菌兵器を開発し、捕虜を使って人体実験をしている、というのです。
(⇦ 「満州」はいまの中国の北東部にあたる地域で、「関東軍」とは満州に配属された日本陸軍の部隊のこと)
関東軍の731部隊の生体実験については、2017年8月に放送された「NHKスペシャル」でも取り上げられました。
優作は、“コスモポリタン”的考え方の持ち主。
「コスモポリタン」とは、国籍や民族などにとらわれず、全人類を仲間とみなす考え方です。優作は世界的視野に立って、関東軍の秘密を公表しようとします。
いっぽう。
東出昌大が演じる津森泰治は、日本陸軍の立場から、秘密を漏らそうとする優作を追います。
価値観の異なる2人の「正義」がぶつかる、というのが『スパイの妻』の大きな構図のひとつ。
また、優作の妻・聡子(蒼井優)は、はじめは何も知らない一般人。
夫の考えを知ってから、「スパイの妻」と世間から罵られながらも、夫についてゆく覚悟を決めます。彼女の変貌ぶりも、見どころのひとつ。
ただし、優作は妻・聡子にすべてをさらけ出している訳ではなく、
「妻を守ろうとしているのか? 妻をも利用しようとしているのか?」
解釈を観客にゆだねる作りとなっています。
『スパイの妻<劇場版>』(138本目)10/10点
— つとちゃん (@qqz65x6d) December 18, 2021
黒沢清監督最高傑作!
前編に漂う緊張感と観客をミスリードさせる見事な脚本。
太平洋戦争時代の残虐な日本軍の所業に同じ日本人として改めて考えさせられたな。
そして軍も政府も国民も同じ目標でつっぱしったあの時代怖さ。#映画好きと繋がりたい pic.twitter.com/EdPsJua0JR
12/8ようやくフランス公開した黒沢清『スパイの妻』
— Abi Sakamoto (@ElleaWatson) December 10, 2021
「リベラシオン」紙、ディディエ・ペロンの批評より
「全編、淡々とした優雅さで撮影された本作は、政治的にも、恋愛においても、運命の紆余曲折に巻き込まれていく男と女の、非常に複雑な二重の肖像を描き出している。」https://t.co/UniWMLnb0M
サスペンス要素はあるものの、はっきりと答えを示してくれる映画ではありません。自分なりに解釈した上で、「他の人はどう感じたのだろう?」と比べるのが『スパイの妻』の楽しみ方でしょう。
「スパイの妻 考察」
などと検索すると、映画を観たさまざまな人の解釈を知ることができます。
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『CURE』や『回路』、『アカルイミライ』など、クロサワ映画を語る上では欠かせない作品をご紹介しています。