映画ときどき海外ドラマ

テレビ放送や動画配信など、おうちで映画を楽しむブログ

ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』考察!チェス愛好者の嘆き!盤上のゲームの本質に迫ってほしかった

スポンサーリンク

ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』考察!チェスの本質に迫る何かが見たかった!

チェスの天才少女を描いたドラマ『クイーンズ・ギャンビット』が話題となっています。各所で絶賛の嵐! 中には、今年No.1のドラマだという声も。

 

確かに面白かった。ストーリーテリング。主人公の際立った個性。ポップな色使い。主演女優の演技力(=子役の子も含め)。ドラマとしては全てがハイ・クオリティです。最終話では泣きました。

 

しかし、チェスのルールを知っており、盤上のゲームに人生の一部を捧げた者としては、モヤモヤしたものが残ります。このドラマからは、題材であるチェスに対するリスペクトが感じられなかったからです。

 

シーズン2はある? Netflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』概要

 

『クイーンズ・ギャンビット』はアメリカの配信ドラマ。冷戦時代に活躍した、チェスの天才少女を描いた人間ドラマです。

Netflixドラマ『クイーンズ・ギャンビット』
原題 The Queen's Gambit
製作国 アメリカ
配信日 2020年
シーズン数 1(ミニドラマ)
話数 全7話(各50分前後)
監督 スコット・フランク
原作 ウォルター・デイヴィス(『The Queen's Gambit』)
出演 アニャ・テイラー=ジョイ、トーマス・ブロディ=サングスター

 全7話からなるミニドラマで、動画サービスNetflix(ネットフリックス)で配信されています。ミニドラマとして企画されていますので、これで完結。シーズン2はないでしょう。

 

海外ドラマ『クイーンズ・ギャンビット』あらすじ

 

交通事故で両親をなくした9歳のベスは、孤児院に入れられます。コミュ障で周りと打ち解けられないベスでしたが、用務員のシャイベルさんがチェスを指すのを見て、興味を持ちます。

 

 シャイベルさんに手ほどきを受けるうち、ベスのチェスの才能は開花。9歳で高校生を打ち負かし、天才チェスプレイヤーとして名を上げてゆくのです・・・

 

 

 

世は冷戦時代。チェスの世界も男性優位です。ベスは、“女性である”ために、特別の注目を集めるようになってゆきます。

 

プレッシャー。自分より若い才能の台頭。元々のコミュニケーション下手。やがて、ベスは心のバランスを失ってゆき・・・

 

 

ターゲットは「チェスをまったく知らない女性層」! 切り捨てられたチェスファン

 

筆者はチェスのルールを知っています。チェスとルールが似ている将棋に至っては、かなりの定跡(=相手がこう指したら、こう指す、という手順)を覚えました。一時期、食事が手につかない程のめりこんだ事もあります。

 (⇦ 将棋もチェスも起源は同じ。インドのチャトランガという遊びから派生しています。取った相手のコマを、自分のコマとして使えるのが将棋です)

 

その立場からの感想です。

 

 

『クイーンズ・ギャンビット』は、寝室での母とのやり取りや、パーティでの女同士の会話が多め。ポップな色使いにも気を配っています。

 

このことから、ターゲットが「チェスをまったく知らない女性層」であることは明白。問題は、そのためにチェス好きが切り捨てられている、ということ。

 

 

『クイーンズ・ギャンビット』では、コマの動かし方すら紹介していません。

 

第1話。ベスと用務員のおっちゃんが、チェスのコマの動かし方を確認する場面があります。カメラは盤面を映さず、会話を交わす2人を捉えています。

 

第2話以降も、

「シシリアン・ディフェンス」

「ナイドルフ・バリエーション」

「クイーン・サクリファイス」

 

と、やたら専門用語は出てきますが、その作戦を盤面で示すことはしません。ほとんどセリフで処理されます。

 

  • 「チェスの世界の奥深さが知れた」
  • 「チェスの楽しさが伝わってくる」

 

チェスをまったく知らない人のこんな感想を、見聞きします。だけど、コマの動かし方やルールも伝えてないのに、チェスの何がわかるというのでしょう?

 

 

考察:チェスの本質がわかっていない? 理解不足を感じる演出の数々とは?

 

『クイーンズ・ギャンビット』の監督&脚本は、スコット・フランク。彼のフィルモグラフィーを見ると、脚本家としてキャリアを積んできたことがわかります。

 

スコット・フランクの脚本作品

  • 『冷たい月を抱く女』(1993)
  • 『マイノリティ・リポート』(2002)
  • 『ザ・インタープリター』(2005)
  • 『ルックアウト/見張り』(2007)

 

どんでん返しや二転三転するサスペンスが得意な脚本家で、題材をちゃんと取材し、その上でドラマを組み立てるタイプです。

 

ただ、『クイーンズ・ギャンビット』に関しては、スコット・フランクは

「チェスのことを深く取材できてないのでは? 理解不足なのでは?」

と感じます。

 

理解不足を感じる点①・・・徹底的に盤面を映さない

 

『クイーンズ・ギャンビット』は、チェスの盤面(=対局中の難しい局面)を徹底的に映していません。天井カメラからの映像なんて、ほとんどなかった

 

チェス好きからすると、盤面から形勢判断(=どちらが優勢か、推し量ること)したくなりますが、あまりにパッパッと画面が切り替わるものだから、それもできません。

 

チェスの醍醐味は、「じっくり考える」ことです。

 

ところが、『クイーンズ・ギャンビット』の演出は、止まった画面を見せることを極度に避けています。アングルの切り替え。ベスが考えている画面に割りこんでくるキャスターの声、ベスのモノローグ(=心の声)。思考を邪魔される気さえします。

 

このスピーディーさはドラマとしては面白いけど、沈思黙考が続くチェスの本質とは真逆ではないでしょうか?

 

 

 

理解不足を感じる点②・・・チェス・プレイヤーは孤独なはずなのに

 

いちばん違和感を感じたのが、ベスがチェス仲間から、作戦のアドバイスを受ける場面の数々。チェス・プレイヤーは孤独な職業。対戦相手になるかもしれないプレイヤーに作戦を教えれば、自分の飯のタネを失う恐れがあります。

 

一人二人ぐらいとなら、こういった交友関係が築かれるのはありだとしても、スポ根もののように皆から応援を受けるという構図は、物凄く違和感を感じます

 

チェス・プレイヤーは、幼い頃から“天才”“天才”、とちやほやされて育った人ばかり。その中でも天才と凡人に振り分けられ、富と名声は一部のトッププレイヤーだけに注がれます。敗者は、「挫折」「才能への嫉妬」という屈折した思いを抱き続けるのです。

 

“チェスの本質”と言う意味では最も大切な部分だと思いますが、『クイーンズ・ギャンビット』からは伝わってきません。敗者が潔すぎるからです。

 

 

感想:題材に対して誠実であれ! 盤上のゲームの本質を伝える映画とは?

 

私はチェスや将棋を題材とした映画を片っ端から見まくった事があります。やはり、ほとんどの作品がゲームの本質を描くことをあきらめ、サイドストーリーにフォーカスしていました。そんな中、そこに挑戦している作品があります。

 

 

一番面白かったのが、賭け将棋の道からプロに進んだ坂田三吉を描いた『王将』(1948年)。主人公は賭け将棋にのめり込み過ぎて、借金はかさみ、家財も奪われ、家の中はすっからかん。絶望した妻はおさない子供を抱いて線路に向かい・・・

 

人生を狂わせてしまう盤上のゲームの悪魔的魅力と、涙ぐましい妻の献身ぶり。ゲームの本質という意味でも人間ドラマという意味でも、ここまで描き切った映画はないと思います。

 

チェスでひとつ挙げるなら、ニュージーランドの映画『ザ・ダーク・ホース』(2014年)でしょう。チェスの王者が、ギャングに勧誘された子供たちにチェスを教えて、更生させようというお話。

 

www.youtube.com

 

チェスの本質に迫りつつも、涙なしでは見られない物語。日本語版のDVDは出てないかも。英語がわかるなら、輸入盤を買い求めることはできます。

 

Dark Horse / [DVD] [Import]

Dark Horse / [DVD] [Import]

  • メディア: DVD
 

 

この映画でとても好きなシーンがあります。子供にコマの動かし方を教えるときに、マオリ族の神話にたとえて説明する場面です。作り手が、観客になんとかルールを伝えようと、頭を悩ませたことが伝わってきます。

 

題材に対して誠実である、ってこういう事だと思うのです。『クイーンズ・ギャンビット』には、決定的に欠けている部分です。

 

  • どうして、たかが盤上のゲームにそこまでハマってしまうのか?
  • どうして、何年も勉強した大人に、子どもが勝ってしまうのか?

 

チェスの本質に迫って欲しかった。このドラマなりの答えを提示して欲しかった。

 

藤井聡太さんが将棋ブームを起こしたとき、ワイドショーが将棋飯のことばかり話題にしたのを思い出します。ファッションや主人公の突き抜けた個性は面白いけれど、本質と違うところで盛り上がっているのは、とても寂しく感じます。