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黒沢清監督おすすめ映画&ドラマ7選!『CURE』『回路』『花子さん』『カリスマ』など

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黒沢清監督おすすめ映画&ドラマ7選!『CURE』

 映画『スパイの妻』でベネチア映画祭銀獅子賞をとった、黒沢清 監督。これまで、ヨーロッパでは評価されていましたが日本での知名度はイマイチでした。

 これから彼の作品を観てみようという人のために、彼が演出した映画やテレビドラマの中からおすすめ作品をピックアップしてみました。

 

黒沢清と黒澤明は親戚?

自主映画から監督の道へ

 黒沢清は、1955年生まれの映画監督。立教大学の自主映画サークル「パロイディアス・ユニティ」で腕をみがき、ぴあフィルムフェスティバルで入選。映画監督の道を歩み始めます。

 名字が似ていますが、黒沢清 監督と『七人の侍』の黒澤明 監督は全くの他人です。親戚関係もありません。「沢」の字も違いますし。 

黒沢清 監督の特徴

 黒沢清 作品の代名詞は、「静謐なホラー」です。“びっくりどーん!!”と驚かせるのではなく、哲学的要素も混ぜながら、じわりと迫ってくるような恐怖。怪奇現象そのものよりも、恐怖体験をきっかけにして負の感情をあぶり出してゆくのが得意です。

 もう一つ。俳優は演技力優先で選ばれており、知名度ありきで起用されることはありません。低予算なのに安っぽさがないのは、“素人っぽい芝居をする人”が出てこないから。

黒沢清監督おすすめ映画&ドラマ7選!

 原作ありきでなく、監督自身がオリジナル脚本を書いている映画・ドラマを中心に選びました。どうしても古い作品が多くなってしまう・・・

学校の怪談「花子さん」(テレビドラマ)

ジャンル:ホラー

製作年:1994年

出演:京野ことみ、馬淵英里何、加瀬亮、加藤晴彦

 

取り壊しの決まった小学校の校舎に、3人の若者(京野ことみ、加瀬亮、馬淵英里何)が不法侵入します。女の一人は、花子さんを呼び出そうとします。

「花子さん、出てきてください。そしてどうか、私の願いを聞いてください」

 

彼女たちは、小学校の時にいじめて、すでに亡くなっいる女の子の霊に悩まされていました。花子さんを召喚し、その霊を追い払ってもらおうというのですが・・・

 

 

 『学校の怪談』は、1994年に放送されたテレビドラマ。清水崇(『呪怨』)や中田秀夫(『リング』)などの映画監督が、持ち回りで演出しています。黒沢清が監督したのが、第3回の「花子さん」。わずか24分の短編ですが、これが怖い。 

『CURE』

ジャンル:ホラー

製作年:1997年

上映時間:111分

出演:役所広司、萩原聖人、うじきつよし、でんでん

 

 娼婦が殺される事件が発生し、犯人はすぐ捕まります。遺体には✕印が刻まれていました。ところが、捕まった男には犯行の記憶がなく、動機も不明。

すぐ後に、別の事件が発生します。被害者には同じ✕の傷跡があります。捕まった男はやはり犯行の記憶がなく、心神喪失の状態にありました。行きづまった刑事の高部(役所広司)は、精神科医の佐久間(うじきつよし)に相談します。

 

催眠術(マインドコントロール)で、彼らに犯行をおこなわせた者がいるんじゃないか?」

佐久間の推理は、思いもつかないものでした。

 

事件を調べるうち、高部は間宮(萩原聖人)という男と接触します。記憶障害を患っている間宮は、おだやかで不思議な男。間宮と関わるうち、高部の心もむしばまれてゆき・・・

 

 

間宮を通して、人間が内に秘めた凶暴性があらわになってゆきます。ギャップが怖え~!! タイトルの『CURE』は、“癒す”という意味ですが・・・

どこが“cure”(癒す)だよ。ぜんぜん逆じゃねーか!!(笑) 

『降霊』(テレビドラマ)

黒沢清おすすめドラマ『降霊』

ジャンル:ホラー

製作年:1999年 

出演:役所広司、風吹ジュン

 

テレビの効果音の技師(役所広司)と妻(風吹ジュン)は、郊外で暮らす平凡な夫婦。しかし、妻には、死んだ人間の霊を自分の体に降ろす「降霊術」の能力がありました。

 

その頃、街では少女誘拐事件が起こっていました。技師の妻は、ひょんなことから女の子を見つけます。夫婦はすぐには警察に告げず、自分たちで犯人を捕まえようとします。やがて、歯車が狂い出し・・・

 

 

1999年に放送された、2時間のテレビドラマ。有名になりたい妻と、彼女の考えを尊重する夫。事件をきっかけに、普段は抑えていた負の感情がむき出しになってゆきます。 

『カリスマ』(1999年)

ジャンル:人間ドラマ

製作年:1999年

上映時間:104分

出演:役所広司、池内博之、大杉漣

 

人質をとった立てこもり事件が発生。刑事の蓮池(役所広司)は、犯人も人質も死なせてしまい、心に傷を負います。森をさまよっていた蓮池が見つけたのが、「カリスマ」と呼ばれる木でした。芽から毒素を放ち、周りの木々を枯らしてしまうという不思議な木。

 住人たちは「カリスマ」を伐採しようとしますが、この木を守ろうとする青年(池内博之)がいました。蓮池は奇妙な木をめぐる住人たちの争いに巻きこまれてゆき・・・

 

 

劇中、曇り空のもと、住民が「カリスマ」の木を運ぼうとするシーンがあります。これは、タルコフスキーの超難解映画『サクリファイス』(1986年)に登場する木と、構図がそっくり。あきらかに意識してる!

  タルコフスキーは『サクリファイス』のテーマについて、

「人々はどうやったら理解し合えるのか? それは譲り合いの精神でしょう。みずからを捧げ、犠牲にすることのできない人間は頼るものがないのです」

と語っています。

 

『カリスマ』が作られたのは1999年ですが、テーマは現代的です。この作品を読み解くと・・・

  • 自分の幸せだけを考え、自己犠牲の精神の欠けた現代人。
  • インフルエンサーに陶酔し、彼らの悪い部分さえ肯定してしまう熱狂的ファン。

こんな人たちを皮肉っているように感じます。

『回路』 

ジャンル:ホラー

製作年:2000年

 上映時間:118分

出演:加藤晴彦、麻生久美子、有坂来瞳、小雪

 

 観葉植物を販売する会社ではたらくミチ(麻生久美子)の同僚・田口が自殺します。田口の部屋に壁には、黒い影が残されていました。影からは、

「タスケテ、タスケテ」

という声だけが聞こえます。

 

いっぽう。大学生の川島(加藤晴彦)はパソコン関連のアルバイトをしていました。川島は、“幽霊に会わせてあげる”と吹聴する怪しげなサイトにアクセスします。

 やがて、ミチや川島の身近な人々が、黒い影だけ残して次々と姿を消してゆきます。

 

 死ぬことの恐怖よりも、残された人間の“孤独”をテーマとしている本作。ジャンルこそホラーですが、哲学的な問いかけは純文学のような味わい。これこそ、黒沢清節! 

『アカルイミライ』

ジャンル:人間ドラマ

制作年:2003年

上映時間:115分

出演:オダギリジョー、浅野忠信、藤竜也

 

 おしぼり工場ではたらく仁村(オダギリジョー)は、不安を抱えながら生きていました。あるとき、仁村は同僚の有田(浅野忠信)からアカクラゲを譲り受けます。

 

その後、有田はおしぼり工場の社長を殺した容疑で逮捕されてしまいます。心を許せる友を失い、路頭に迷ったままクラゲの飼育に没頭する仁村。やがて彼のもとに、有田の父親(藤竜也)があらわれ・・・

 

 未来に不安を抱える青年と、友人の父親との奇妙な人間ドラマ。時間の経過を淡々と追うドキュメンタリータッチの演出の中に、感情の揺れが見えてきます。こんなに暗い話なのに、じわじわ染み出してくる“明るさ”は何なのだろう?

『ドッペルゲンガー』(2003年)

ジャンル:ホラー

製作年:2003年

上映時間:107分

出演:役所広司、永作博美、ユースケ・サンタマリア

 

デザイン会社に勤める由佳(永作博美)は、なくなった弟のドッペルゲンガー(=分身)と暮らしていました。

 

いっぽう。医療機器メーカーで働く早崎(役所広司)は、義手のついたロボットの開発を進めています。研究ははかどらず、ノイローゼ気味になっていた早崎の前に“もう一人の自分”が現われます。早崎のドッペルゲンガーは暴走し、由佳の弟のドッペルゲンガーを攻撃! 倒してしまいます。

 自分の分身を怖れるようになった早崎は、ドッペルゲンガーを抹殺しようと試みますが・・・

 

本人と分身。2つの人格を演じわける俳優の力量がスゴイ! 役所広司もユースケ・サンタマリアも上手すぎる!

まとめ

 黒沢作品は、わかりやすいエンタメではありません。哲学的な思考はヨーロッパの芸術映画に近いものがありますし、自主映画のテイストを残した“純和製ホラー”ともいえます。

 映画が伝える深いテーマを考察してみたい人には、おすすめの映画作家です。