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映画『IT』90年代のドラマ版との違い&元ネタのおとぎ話とは?

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映画『IT』90年代のドラマ版との違い&元ネタのおとぎ話とは?

スティーヴン・キングの小説『IT-イット-』を映画化した『IT/ “それ”が見えたら、終わり。』は、異例の大ヒットとなりました。続編となる映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』も好調です。

 原作が映像化されるのは、これが初めてではありません。1990年代にもTVドラマが作られています。

 

この記事では、1990年制作のドラマ版のあらすじをご紹介。映画版との違いを考察します。また、ピエロの悪役・“ペニーワイズ”には、モデルとなったおとぎ話が存在します。こちらも、合わせてお伝えします。

1990年のドラマ版『IT』のあらすじ【ネタバレなし】

  スティーヴン・キングの原作小説『IT』は、1986年に発表されています。これを初めて映像化したのが、1990年のミニドラマです。

 

これは、「前編」「後編」の2回にわけて放送されたTVドラマ。各90分。トータル180分。日本でもスペシャルドラマを2夜連続で放送することがありますが、あれに近いイメージです。 

いじめられっ子のビルたち7人、【負け犬クラブ】を結成!

 1990年の、アメリカのメイン州デリー。この地で、子どもだけが狙われる殺人事件が起こります。デリー在住の図書館員・マイクは、事件現場である男の子の写真をみつけます。それは、マイクの旧友ビルの弟、ジョージーの写真でした。

 

30年も前になくなったはずのジョージーの写真が、なぜ現場にあるのか? 

 

マイクは慌てて、イギリスで小説家となったビルに電話します。

IT(あいつ)が出た!

 

ビルは、少年時代のトラウマを呼び覚まされます・・・

 

・・・30年前。デリーに住んでいたビルは、どもりがちな少年。

あるときビルは、弟のジョージーにおもちゃの帆船を作ってあげます。その船を川辺で走らせていたジョージーは、何者かに橋の下に引きずりこまれてなくなったのです。

  

この土地には、奇怪なピエロ、“ペニーワイズ”という男が出没していました。

橋の下。排水溝。廃工場の中・・・ペニーワイズは、弱みをもった子供たちの前に現れては、幻覚をみせたり、相手が恐怖を抱いているものに変身したりして、おどしていました。

 

“恐怖を与えて弱った子供ほど、食べたらウマい”

というのが、ペニーワイズの考え方でした。

 

ビルの他にも、ペニーワイズの恐怖におびえていた子供たちがいました。

  • アフリカ系の少年、マイク
  • 転校してきたばかりで、太っていることをからかわれていたベン
  • 父親からDV被害を受けていたそばかす少女、ベヴァリー
  • ものまねが得意なメガネの少年、リッチー
  • ぜんそく持ちで、ママが過保護なエディ
  • ユダヤ系の少年、スタンリー

いじめられっ子だったビルたち7人は、【負け犬クラブ】を結成。不良グループに果敢に立ち向かっていました。

 (⇦ 映画では【ルーザーズ・クラブ】とも表記)

ペニーワイズ撃退に成功!でも30年後、再びあいつは現れた!

 実は、30年前も子供ばかりが失踪する事件が続発していました。ビルたちは、一連の事件は、“ペニーワイズ”の仕業だとにらんでいました。

 

しかし、“ペニーワイズ”の姿はなぜか大人には見えません。そこで勇気をふり絞り、ビルたちは子供だけで立ち向かったのです。

 

下水道で、“ぺ二ーワイズ”を撃退した【負け犬クラブ】の7人。ビルは、別れ際、みんなに呼びかけます。

「もしあいつが再び現れることがあったら、またみんなで集まろう!

 

 

ビル。マイク。ベン。ベヴァリー。リッチー。エディ。スタンリー。

 

彼らは大人となり、それぞれ別の地で過ごしていましたが、

「あいつが現われた」

という連絡を受け、過去のトラウマを思い出します。

7人は昔の約束を思い出し、デリーに集まることにします。過去のトラウマと決別するために。

 

ところが、メンバーの1人、スタンリーが幻覚にとらわれて自ら命を絶ってしまいます。残る6人はデリーに集合しますが、“ペニーワイズ”は次々と彼らにワナを仕掛け・・・

映画版『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』とドラマ版の違い

  • 映画『IT/ “それ”が見えたら、終わり。』(2017年)・・・子供時代
  • 映画『IT/ THE END “それ”が見えたら、終わり。』(2019年)・・・大人になってから

 

 映画版の構成は、基本的にはドラマ版の「前編」「後編」と同じです。ストーリーもほぼ同じです。ただ、物語の語り口が違います。

語り口の違い

 1990年の『IT』ドラマ版は、30年ぶりに集まることになった【負け犬クラブ】のメンバーたちが、代わる代わる描かれます。

 

現在のマイク ⇨ 現在のビル ⇨ 30年前のビル ⇨ 現在のベン ⇨ 30年前のベン ⇨ 現在のベヴァリー ⇨ 30年前のベヴァリー

 

というように、7人それぞれの現在と過去を交錯させながら、描かれてゆきます。章ごとに主人公役が変わる原作に近い構成です。

 

 

これに対して、映画版は前編(2017年)は子供時代、後編(2019年)は大人時代というように、完全にわけています。

また、7人はバラバラではなく、いっしょにいる時間が多めです。 

 

 映画化にあたって、シンプルな構成に変更したのは、

「ドラマ版のような複雑な構成だと、幅広い年齢層が理解するのは難しいのでは?」

という映画会社の判断があったのでしょう。

 

実際、映画『IT/ “それ”が見えたら、終わり。』はホラーとしては記録的な大ヒットとなりました。マーケティングとしては、成功したことになります。

登場人物の性格付けの違い

 ドラマ版から映画版への変更点を挙げてみます。

  • ベバリーは、ビッチな性格に
  • リッチーは、口が悪くなった
  • 不良グループのリーダー、ヘンリーの家庭環境が詳しく描かれる

不良のリーダー、ヘンリーには警官の父親がいますが、映画版ではヘンリーと父の確執が描かれています。さらに、ヘンリー自身も、ペニーワイズの幻影に苦しめられます

 

ただし、この変更点はシナリオ的には失敗だったと思います。

 

不良のリーダー・ヘンリーの心の弱さを描いてしまうと、“恐怖の対象”としての彼の存在感がうすれるからです。

ドラマ版では、ヘンリーの背景は描かれません。ビルやマイクたちをいじめ続ける、ヘンリー。あの、理由のわからないしつこさが怖かったのですが・・・

恐怖の質の違い

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  「ドラマ版は全然こわくない」という意見を耳にします。確かに、30年も前の作品なので技術的な問題もあり、クリーチャーとか合成シーンは映画版にくらべて見劣りします。

 しかし、原作の持っていたじわじわ迫る恐怖、心理的に追い詰められるような恐怖はドラマ版のほうがあるように思います。

 

 映画版はけっこうなグロ描写があります。不気味なクリーチャーがたくさん出てきますし、「どーーん!!」と大きな音でびっくりさせられることもあります。

(⇦ 観客を追いつめて、効果音でおどかす手法を『ジャンプ・スケア』と呼びます)

 

映画版が「お化け屋敷」なら、ドラマ版は「怪談話」。映画版のほうがアトラクション的な恐怖で、ドラマ版は想像力に訴えかける恐怖という感じ。

がっかり? ラストが不評なのは、唐突なジャンルミックス?

 評判が悪いのが、ドラマ版のラストです。ネタバレは避けますが、今までホラーだと思っていたのが、急に別ジャンルとなったような肩すかしを食らわされます。

 

「しょ~もな~」

と、感想をもらす人も多いようです。

 

原作者のスティーブン・キングは、元々ジャンルミックスが多い作家です。

  • 『グリーン・マイル』・・・無罪かもしれない死刑囚が、いやしの能力を持っている(人間ドラマ+SF)
  • 『キャリー』・・・いじめられっ子の女の子が、同級生に超能力で復讐する(ホラー+SF)
  • 『デッドゾーン』・・・自動車事故でこん睡状態に陥った教師が、未来を予知する能力を身につける(サスペンス+SF)

 ドラマ版のラストは唐突に別ジャンルとなった印象が強く、 がっかりするのも肯けます。

 

映画版ではラストが不自然にならないように、序盤・中盤から不気味なクリーチャーを何度も出し、ジャンル・ミックスものであることを匂わせています。

 

映画版とドラマ版を見比べてみるのも、面白いかもしれません。 

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考察: ペニーワイズの元ネタ?『三匹のやぎのがらがらどん』

トロル

 『IT』 の原作者、スティーヴン・キングは、執筆にあたってノルウェーに伝わるおとぎ話、『三匹のやぎのがらがらどん』を参考にしたと明かしています。

>> 小説『IT』の着想

 

『三匹のやぎのがらがらどん』は、つり橋に住みついた化け物トロールと、橋を渡りたい3匹のヤギのお話です。

わたしは、たまたまこの物語を知っていました。音楽教室に通っていた弟が、このおとぎ話を音楽劇にしたテープをもらってきたからです。

『三匹のやぎのがらがらどん』あらすじ

 あるところに、3びきのヤギが住んでいました。大きいヤギ、二番目ヤギ、小さいヤギの3匹です。みんな仲良し、みんな同じ『がらがらどん』という名前です。

 

ヤギたちは、おいしい草を求めて、高い山をめざします。川を渡って向こうにゆくには、つり橋を通らなくてはなりません。ところが、このつり橋には怖~いトロールが棲みついていました。

 

トロールは、3匹に警告します。

「この橋を渡るヤツは、誰だってひと飲みにしてしまうぞ!」

 

そこで、3匹の『がらがらどん』は相談します。

 

まず、小さいヤギの『がらがらどん』が、1匹だけで橋を渡ってきます。

 トロールが

「お前をひと飲みにしてやるぞ」

と言うと、小さいがらがらどんは

「僕のあとに、もっと大きなヤギが来ます。そっちのほうがおいしいですよ」

と語ります。

 

トロールは小さいヤギを見逃し、次が来るのを待ちます。

 

続いて、二番目ヤギの『がらがらどん』が、つり橋を渡ってきます。

トロールが

「お前をひと飲みにするぞ!」

と言うと、2番目ヤギのがらがらどんは

「僕のあとには、もっともっと大きいヤギがくる。そっちのほうがおいしいよ」

と語ります。

 

トロールは、2番目ヤギも見逃します。

 

大きいガラガラドンが、つり橋を渡ってきます。

トロールが

「ようやく来たか。お前を食べてやる」

と言うと、大きいがらがらどんは一直線にトロールに襲いかかります。大きいがらがらどんは、自慢のツノでトロールを一突き!

 

バラバラに砕かれたトロールは、橋の下に消えてゆきます。3匹は山にたどり着き、おいしい草にありつけたのでした。

 『IT/イット』の物語、発想のアイディア

 原作者のキングは、つり橋の主だったトロールを、ピエロの怪人に置き換えました。

 

さらに、このおとぎ話が面白いのは、

① それぞれが、1対1でトロールと対面する

② 通常、弱くておとなしいヤギが、化け物のトロールに勇敢に立ち向かう

の2点です。

 

 『IT』では、このおとぎ話の特徴をうまく物語に組みこんでいます。

「吊り橋理論」との関連性 

 心理学に、「吊り橋理論」という学説があります。これは、おもに“恋愛”にまつわる理論。

 人は、不安や恐怖を強く感じているときに出会った人に、恋愛感情を持ちやすくなるという考え方です。 

カナダの心理学者ドナルド・ダットンとアーサー・アロンが、【つり橋】で行なった実験をもとにこの学説を提唱したことから、「つり橋理論」と呼ばれます。

 

 この理論をもう少し広く解釈すると、同じような恐怖を感じている人に出会ったとき、その人に親近感がわく、ということになります。

 まさに『IT』の【負け犬クラブ】の結束力は、この「つり橋理論」の応用といえるのではないでしょうか。