2020年の1月、映画『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』が公開されました何度も企画中止になりかけながら、監督の執念で公開にこぎつけた作品です。
この記事では、そんなこだわり派の監督テリー・ギリアムのおすすめ作品をご紹介します。
- 映画界の異端児? テリー・ギリアム監督の作風は?
- 『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975年)
- 『バンデッドQ』(1981年)
- 『未来世紀ブラジル』(1985年)
- 『フィッシャー・キング』(1991年)
- 『12モンキーズ』(1995年)
- 『バロン』(1988年)
- 『Dr.パルナサスの鏡』(2009年)
- 『ロスト・イン・ラ・マンチャ』(2002年)
映画界の異端児? テリー・ギリアム監督の作風は?
テリー・ギリアム作品の特徴は、何といってもイマジネーション豊かなビジュアルです。退廃した世界観(『未来世紀ブラジル』)、絵本のような映像(『Dr.パルナサスの鏡』)、悪趣味なイメージ(『ローズ・イン・タイドランド』)などなど。
また、古典文学を題材にしながら、現代に投げかける鋭いメッセージも特徴的です。
他人におもねる民衆への皮肉(『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』)、監視社会の恐怖(『未来世紀ブラジル』)、動物愛護(『12モンキーズ』)など。
ギリアム映画には、タイムトラベル、夢、願望と言った要素がよく出てきます。
このため、ストーリーは難解であることも多く、やや映画マニア向けとなります。爆笑問題の太田光さんは、監督本人に対して、「あなたの作風は一般ウケしない」と語ったこともあります(笑)。
『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975年)
- 上映時間:92分
- ジャンル:コメディ
- 出演者:グレアム・チャップマン、テリー・ギリアム、エリック・アイドル
中世のイングランド。英国王・アーサーとその従者パッツィは、忠誠心と強さを備えた騎士たち(=円卓の騎士)を集めるため、国中をまわっていました。
ガラハッド卿、ラインハルト、ロビン、エイガニデテコナイ卿を味方につけたアーサー達は、神のお告げを聞きます。
「聖杯をみつけろ!」
アーサーと円卓の騎士たちは、手分けをして聖杯を探しますが・・・
ギリアムがコメディ集団モンティ・パイソンのメンバーと撮った作品。イギリスに伝わる中世の騎士道物語を、ナンセンスンな笑いとともに映像化しています。
『バンデッドQ』(1981年)
- 上映時間:103分
- ジャンル:ファンタジー
- 出演者:クレイグ・ワーノック、シェリー・デュヴァル、ショーン・コネリー
少年ケヴィンのいる子供部屋のクローゼットから、馬に乗った騎士が突然とび出してきます。そして、壁の中に消えます。ケヴィンがクローゼットや壁を調べても、何もありません。
次の日の晩。
今度は6人の小人があらわれます。彼らは、時空を自由に行き来できる強盗団でした。
実は、小人たちは“万物の創造主”である神から地図を盗んでいました。地図には、時空の穴であるタイムホールの場所が記載されています。
その地図を狙って、悪魔が追いかけてきます。ケヴィンは悪魔から逃れるため、小人と共にさまざまな時代を旅することになり・・・
日本未公開。
スペイン侵攻中のナポレオンと出会ったり、沈没寸前のタイタニック号に遭遇したり・・・タイムマシンで時空を旅する『ドラえもん』のようなファンタジーです。
『未来世紀ブラジル』(1985年)
- 上映時間:143分
- ジャンル:SF
- 出演者:ジョナサン・プライス、ロバート・デ・ニーロ、マイケル・ペイリン
人々の思想までが監視されている、架空の国。
各家庭が「ダクト」と呼ばれるパイプで結ばれていて、非法行為をした者の家には、この「ダクト」を通って役人がやってきます。
あるとき。役人のひとりがミスを犯し、テロ容疑で無実の人間を逮捕をしてしまいます。【情報局】に勤める役人・サムは、このミスの処理に追われていました。
そんな折。人違いで逮捕者が出たことに、ジルという女が抗議にやってきます。サムは驚きます。サムの夢によく出てくる美女に、ジルが似ていたからです。サムは、ジルの正体を知るため、部署替えを申し出ますが・・・
テリー・ギリアムの鬼才ぶりが表れた代表作。
戦国の甲冑、福笑いのお面が登場するメチャクチャな世界。サムが見る夢もメチャクチャ。しかし、支離滅裂な要素も、最後まで見てゆくと・・・
『フィッシャー・キング』(1991年)
- 上映時間:137分
- ジャンル:人間ドラマ
- 出演者:ロビン・ウィリアムズ、ジェフ・ブリッジス、アマンダ・プラマー
ラジオDJのジャックは、過激なトークが持ち味。ある日、リスナーから人生度相談を受けたジャックは、冗談で過激な解決策を示します。
ところが、真に受けたリスナーは大きな事件を起こしてしまいます。ジャックは職を失い、すっかり落ちぶれてしまいます。
ある日のこと。浮浪者狩りの若者グループに襲われたジャックは、ホームレスのパリーに命を救われます。
パリーは、
「僕は1年前から妖精が見えるようになった。それから、神のために働いているんだ」
と、語ります。
パリーのことをうさん臭いやつだと思っていたジャックですが、次第に彼に惹かれてゆき・・・
イギリスの民間伝承、『アーサー王物語』の1エピソード「漁夫王(いさなとりのおう)」を、現代に置き換えて映画化。鬼才・ギリアム作品の中でも、わかり易いヒューマン・ドラマとなっています。
『12モンキーズ』(1995年)
- 上映時間:130分
- ジャンル:SF
- 出演者:ブルース・ウィリス、マデリーン・ストウ、ブラッド・ピット
2035年。人類の99%はウィルスによって死滅、生き残った者たちは地下で生活していました。囚人のジェームズは任務を与えられ、1996年の過去にタイムスリップします。
目的は、ウィルスを散布した疑いのある団体「12モンキーズ」の秘密を探ること、そしてワクチンを作るために純粋ウィルスを入手することでした。
ところが、タイムマシンの故障により、ジェームズがたどり着いたのは1990年でした。ジェームズは捕らえられ、精神病院に入れられてしまいます。病院で彼が出会ったのが、患者のジェフリーと精神科医のキャサリンでした。
その後、ジェームズはタイムマシンで1996年にやってきます。その世界では、ジェフリーが「12モンキーズ」のリーダーとなっていて、ウィルスを散布しようとしています。しかも、ジェフフリーにきっかけを与えたのが、6年前のジェームズとの会話だったらしく・・・
誰が人類を滅ぼそうとしているのか?
タイムパラドックスとサスペンスを絡めたSF映画。ラストの解釈をめぐって、映画マニアが考察に夢中になった傑作。ここでも明らかになるギリアムの鬼才ぶり!
『バロン』(1988年)
- 上映時間:127分
- ジャンル:ファンタジー
- 出演者:ジョン・ネヴィル、サラ・ポーリー、エリック・アイドル
18世紀の後半。トルコ軍から猛攻を受けていたドイツは、街中にも絶望的な空気が流れていました。そんな中、ボロボロの劇場では、ヘンリー・ソルト一座による劇「ミュンヒハウゼン男爵の冒険」が上演されています。
すると上演中、ひとりの老人が現われ、「自分こそがミュンヒハウゼン男爵だ」と主張します。
ミュンヒハウゼン老人は、4人の家来とともにトルコの宮廷を訪れ、賭けをした、と語ります。トルコの皇帝のために1時間で高級ワインを取り寄せ、もし間に合わなかったら自分の首をさし出す約束をした、というのです。
ミュンヒハウゼン老人は賭けに勝ったものの、ほうびを受け取りすぎて、皇帝を激怒させてしまいます。いまトルコ軍に攻撃されている原因は、自分にある、というのです。
老人の語るハチャメチャな物語に、劇団員の少女・サリーは夢中になります。サリーは、話の続きを聞こうと、老人を追いかけますが・・・
ドイツに伝わる民話「ミュンヒハウゼン男爵の冒険」を映像化。
ほら吹き男爵の想像を越えるホラ話に、愉快な気分にさせられます。SFXの技術を駆使した映像も楽しい!
関連:同じ原作の、ドイツ製TV映画も楽しいぞ!
『Dr.パルナサスの鏡』(2009年)
- 上映時間:124分
- ジャンル:ファンタジー
- 出演者:ヒース・レジャー,、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレル
ロンドンの見世物小屋で、かわった出し物をする一座がいました。1000年生きたというパルナサス博士、小人症のパーシー、若いアントン、博士の娘ヴァレンティーナの4人です。
パルナサス博士は、“悪魔”と賭けをしていました。どちらが客の心をつかむか、勝負していたのです。博士は、不思議な鏡を客に見せ、人々が心の中に隠し持っている欲望の世界にいざなっていました。
あるとき。一座は、橋の上で自殺しようとしているトニーという男を助けます。一座に加わったトニーは、新しい出し物をするように提案しますが・・・
鏡を見た客によって、見える世界も変わってしまう、という抜群のアイディア!
撮影途中でヒース・レジャーがなくなる不運に見舞われますが、ジョニー・デップ、ジュード・ロウ、コリン・ファレルの3人が彼の代役をつとめ、何とか完成にこぎつけます。
『ロスト・イン・ラ・マンチャ』(2002年)
テリー・ギリアムは、スペインの騎士道物語『ドン・キホーテ』にあこがれ、何度も映画化を試みています。
ギリアムが1991年ごろ取り組んだ最初の企画では、
- ドン・キホーテ役にジャン・ロシュフォール
- 現代から中世に迷いこみサンチョに間違われるトビー役にジョニー・デップ
- トビーが恋する女性にヴァネッサ・パラディ
で、撮影が準備されていました。
ところが、ロシュフォールが腰を痛めたり、ヴァネッサの契約がなかなか交わされなかったり、撮影前からトラブルが多発します。撮影開始後も問題は続出! 助監督がリハーサルを行なってなかったり、撮影現場の近くをNATOの爆撃機が飛び回ってたり・・・
ギリアムの最初のドン・キホーテ企画が失敗に終わるようすを描いた、ドキュメンタリー。限られた予算の中で大がかりなファンタジー映画を撮ることの大変さがわかります。