Netflix(ネットフリックス)で、映画『エノーラ・ホームズの事件簿』の配信が始まりました。予告編から、コミカルな雰囲気のミステリー作品を想像した人も多いのではないでしょうか?
この記事では、映画『エノーラ・ホームズの事件簿』の簡単なあらすじ、登場キャラクターと吹き替え声優をご紹介。意外にも、本作はメッセージ性の強い作品です。脚本家の狙いを考察してみました。
- 映画『エノーラ・ホームズの事件簿』概要
- Netflix『エノーラ・ホームズの事件簿』あらすじ
- 映画『エノーラ・ホームズの事件簿』キャラクターと吹き替え声優
- 感想:シャーロキアン激おこ?若者の政治離れの象徴がホームズなんて!
映画『エノーラ・ホームズの事件簿』概要
『エノーラ・ホームズの事件簿』は、2020年公開のイギリス映画。名探偵シャーロック・ホームズに妹がいたという設定のもと、彼女が家出した母親を探しにゆく、というお話です。
『エノーラ・ホームズの事件簿』 | |
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原題 | Enola Holmes |
製作国 | イギリス |
配信開始 | 2020年 |
上映時間 | 123分 |
監督 | ハリー・ブラッドビア |
原作 | ナンシー・スプリンガー『エノーラ・ホームズの事件簿』シリーズ |
脚本 | ジャック・ソーン |
出演 | ミリー・ボビー・ブラウン、ヘンリー・カヴィル |
コロナ禍の影響で劇場公開は断念され、権利を取得したNetflixで配信されています。動画サービスNetflixのみでしか視聴できません。
ENOLA HOLMES🕵️
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is onw tsreamngi goblally
on Ntefilx!!! 🔎 pic.twitter.com/x6FcdlogX2
ドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』のミリー・ボビー・ブラウンがホームズの妹・エノーラを演じ、『マン・オブ・スティール』のヘンリー・カヴィルがホームズを演じます。
主要キャストは、みなイギリス人俳優で固めています。イギリスの歴史と深く関わる内容だからです。
Netflix『エノーラ・ホームズの事件簿』あらすじ
1900年代の初頭。ホームズ家に生まれた娘・エノーラは、母ユードリアと2人で暮らしていました。ホームズ家では、父が早くに他界。兄も2人いましたが、どちらもエノーラが幼い頃に家を出ていました。
母は変わった教育方針でした。首飾りの作り方や刺繍は教えず、読書や科学・スポーツをエノーラに教えこみます。そんな母には秘密がありました。女性ばかりの集会に通っていたのです。
エノーラが16歳の誕生日をむかえた日。母はわずかな手がかりだけを残し、家を出てゆきます。入れ替わるように、官僚となった長男のマイクロフトと、探偵となった次男のホームズが帰ってきます。
what do I have to do to get this kind of respect from my siblings pic.twitter.com/4CkTxz3H24
— NetflixFilm (@NetflixFilm) September 25, 2020
マイクロフトはりっぱな淑女に育っていない妹を見て、びっくり! エノーラを寄宿学校に入れて、“女性らしさ”を叩きこんでもらおうとします。反発したエノーラは学校を抜け出し、少年に変装。家を出ていった母を探しに、旅に出ます。
エノーラは都会に向かう列車の中で、バジルウェザーという若い侯爵と出会います。エノーラはバジルウェザーと途中で別れますが、彼が命を狙われていることを知ります。エノーラは母親探しをいったん中断し、バジルウェザーをつけ狙う犯人をつきとめようとしますが・・・
映画『エノーラ・ホームズの事件簿』キャラクターと吹き替え声優
エノーラ・ホームズ
ミリー・ボビー・ブラウン/白石 晴香
Meet the Holmeses pic.twitter.com/OP5jLY2mPc
— NetflixFilm (@NetflixFilm) September 23, 2020
ホームズの妹。名前の【 Enola 】はアナグラムになっており、アルファベットを並べ替えると【 Alone 】(アローン=独りぼっち)となる。女一人でも生きていけるように、という母の願いがこめられている。
シャーロック・ホームズ
ヘンリー・カヴィル/星野 貴紀
ホームズ家の次男。有名な探偵で化学者。この作品には、相棒のワトソン博士は出てこない。
マイクロフト・ホームズ
サム・フランクリン/花輪 英司
ホームズ家の長男。官僚。古風な考えの持ち主で、“女性は淑女でなくてはならない”と思いこんでいる。
ユードリア・ホームズ
ヘレナ・ボナム=カーター/高野 麗
Activities! with Helena Bonham Carter pic.twitter.com/DTLvM6CY5I
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エノーラたちの母。娘のエノーラを型にハマらない子に育てた。単語のアルファベットを入れ替える言葉遊びが大好き。
バジルウェザー・テュークスベリー侯爵
ルイス・パートリッジ/上村 裕翔
エノーラと列車で出会う若い貴族。家族から軍隊に入れられそうになったため、家出した。家族の誰かに命を狙われている。
テュークスベリー未亡人
フランシス・デ・ラ・トゥーア
バジルウェザーの祖母。先祖から受け継いだ土地を代々守ってゆくことの尊さを、エノーラに語る。
エディス
スージー・ウォコマ
黒人女性。柔術の先生。ユードリアの師であり、エノーラにも柔術を教える。
🔎 I spy some more ENOLA HOLMES pic.twitter.com/dJ7JnmYPMb
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感想:シャーロキアン激おこ?若者の政治離れの象徴がホームズなんて!
原作は、 1910年ごろの政治改革をモチーフにしているが・・・
映画『エノーラ・ホームズの事件簿』は、ナンシー・スプリンガーの小説『エノーラ・ホームズの事件簿』シリーズの第1作「消えた公爵家の子息」を原作としています。小説が執筆されたのが、2006年。女の子向けのライトノベルです。
*looks directly into camera* why yes, ENOLA HOLMES is directed by FLEABAG's Harry Bradbeer pic.twitter.com/hMqoUq3t9O
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とはいえ、イギリスで実際にあった1900年代初頭の政治改革をモチーフにしています。母のユードリアが女性の参政権獲得のため、爆破テロも辞さない過激な行動をとるのは、実在の運動家エメリン・パンクハーストらをモデルにしていると思われます。
(⇦ 映画『未来を花束にして』では、参政権を求めて闘った女性たちを描いています)
また、貴族院の改革法案については、1911年の議会法成立がモチーフになっています。この議会法案によって、貴族で構成される上院の権限が制限され、国民が選んだ議員が集まる下院の決定が優先されるようになるのです。
バジルウェザー侯爵は貴族の身でありながら、下院の優越や女性の参政権に理解を示す進歩的なキャラクターとして描かれています。
脚本家が裏テーマにしたのは、EU離脱の原因となった若者の政治離れ?
ところが、昔の選挙改革を題材としながらも、映画の脚本は別の歴史的事件を想起させます。
2016年に行なわれ、イギリスのEU離脱を決定づけた国民投票です。EU離脱が決まってから、「こんなはずじゃなかった!」と慌てるイギリス人がたくさんいました。特に、寝耳に水だったのが、選挙権を持ちながら投票にゆかなかった若者たちです。自分たちの将来を左右する決定が、こんな簡単に決まってしまうなんて!
Inspired by Sherlock’s sister ENOLA HOLMES, we installed statues in cities around the UK celebrating the real-life sisters of famous figures whose prestigious achievements have been overshadowed in the history books by their more widely known brothers. pic.twitter.com/yrCkbhlQrT
— Netflix UK & Ireland (@NetflixUK) September 22, 2020
EU離脱と若者の政治離れが裏テーマであることは、エノーラの名前や母との会話からもうかがえます。
エノーラの名前【 enola 】のアルファベットを並び替えると、【 alone 】。独りぼっち、つまり孤立を意味しています。これはEUから脱退し、経済的に孤立する恐れのあるイギリスを示している、と読み解けます。
母ユードリアは、エノーラに
「【 alone 】になっても心配することはないわ。未来は自分たちで変えていける!」
と、メッセージを送っています。
このセリフはメタファー(隠喩)になっていて、言い換えるなら
「イギリスがEUから孤立しても悲観的になるな。君たち若者が自分の未来を選べ!」という意味でしょう。
ここまではわかります。過去の歴史的事件を教訓として、いまの国や社会が抱える問題を浮き彫りにする・・・シナリオでたびたび使われるテクニックだからです。ところが!
シャーロキアン激おこ?若者の政治離れの象徴がホームズなんて!
映画『エノーラ・ホームズの事件簿』では、主人公のエノーラと母ユードリアは、好意的に描かれています。世の中に関心を持ち、みずから社会を変えていこうとする好人物。
これに対して、長男マイクロフトと次男シャーロックは、古い価値観をもつ堅物として描かれます。というより、悪役にさえ見えます。
キャラクターの属性
- エノーラ・・・○
- ユードリア・・・○
- バジルウェザー侯爵・・・○
- マイクロフト・・・✕
- シャーロック・・・✕
こうやって、登場人物に相反する属性を持たせることで、衝突が起こり、ドラマを生みだす。それ自体はうまくいってます。ただし、問題はここから。
物語の中盤。シャーロックは、黒人女性の柔術家・エディスからかなり強い口調で叱られます。
エディス「あなたは、力を持たない者の苦しさを知らない。政治に無関心よね?」
シャーロック「退屈だから」
エディス「世界を変える気がないのね。現状で満足なんでしょ?」
シャーロック「・・・いいスピーチだ」
このセリフのやり取りは、2016年の国民投票に参加しなかったイギリスの若者を、暗にとがめていると思われます。シャーロックは、政治に関心を持たず重要な決定が下されてから文句を言う人たちの象徴として、扱われているのです。
あげくの果てに、とどめの一撃!
エディス「妻も友達もなく、おかしなことを職業にして、足跡とか灰とかで頭がいっぱい。世の中が変わっているのが見えないの?」
ホームズの“変人ぶり”を全否定しちゃってます。これってどうなの?
Was Henry Cavill born in the wrong century?
— Netflix (@netflix) September 25, 2020
I mean ... this just looks right pic.twitter.com/fAbJZyL87v
この映画のタイトルは、『エノーラ・ホームズの事件簿』ですよ。いわば「名探偵シャーロック・ホームズ」の二次創作なわけです。ホームズの知名度のおかげで商売してるのに、ホームズのパーソナリティを全否定するってどないやねん! あの偏屈ぶりが好きなんじゃいっ!!
・・・というシャーロキアン(=ホームズの熱狂的ファン)のツッコミが聞こえてきそう。
映画『エノーラ・ホームズの事件簿』は、コメディ的な演出が楽しい作品です。主人公のエノーラは元気でかわいらしいし、ロケ地の風景もキレイ。俳優さんたちのイギリス訛りも耳に心地いいです。
でも、脚本家が伝えたいメッセージに固執するあまり、シャーロックを悪者にしてしまっています。ホームズファンが心から楽しめる作品じゃなきゃ、本末転倒だと思うのは私だけでしょうか?
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