ハリウッド映画では、回想シーンはほとんど使いません。現在進行形で物語を進ませながら、セリフや態度で人間関係やバックグラウンドを説明してゆきます。
過去と現在を行ったり来たりするような複雑なシナリオは、観客を感情移入させるのが難しいからです。
そんな中、時系列が複雑なのに思わず泣けてしまう、見事な日本映画があります。映画版『八日目の蝉』です。
- 映画『八日目の蝉』BSでのテレビ放送(2024)はいつ?ジャンルは?上映時間は?
- 映画『八日目の蝉』のあらすじと評価
- 映画『八日目の蝉』原作との違いを解説【時系列が複雑なのに泣ける!“回想シーン”の繋ぎがうますぎる】
映画『八日目の蝉』BSでのテレビ放送(2024)はいつ?ジャンルは?上映時間は?
『八日目の蝉』は、2011年の日本映画。
不倫相手の赤ちゃんを誘拐した女が、「母性」に目覚めてゆく姿を描く人間ドラマ、サスペンスです。
映画『八日目の蝉』 | |
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製作年 | 2011年 |
ジャンル | サスペンス、人間ドラマ |
上映時間 | 147分 |
監督 | 成島 出(なるしま いずる)『ソロモンの偽証』 |
原作 | 角田 光代(かくた みつよ)『八日目の蝉』 |
脚本 | 奥寺 佐渡子(アニメ映画『時をかける少女』) |
出演 | 井上真央、永作博美、小池栄子 |
原作は、直木賞作家・角田光代さんの同名小説。
2010年には、檀れいさん主演でNHKで連続ドラマ化されています。
13:00 ~ 15:29
>> 【放映カレンダー】TV映画(BS・地上波) - 映画ときどき海外ドラマ
映画『八日目の蝉』のあらすじと評価
内容
1995年、東京地裁。
被告人の野々宮 希和子(永作博美)は、傍聴席の秋山 恵津子(森口瑤子)に感謝の言葉を述べます。
「4年間、子育てする喜びを味わわせてもらった秋山夫妻に感謝しています」
希和子は、恵津子の娘(=秋山 恵理菜)がまだ赤ん坊のころに誘拐し、宗教団体【エンジェルホーム】の施設で育てていたのです。
もともと恵津子の夫と希和子は、不倫関係にありました。
希和子は赤ちゃんの命を奪おうとしたものの、赤ちゃんの笑顔を見て
「この子を守る・・・私がこの子を守る」
と思い直し、衝動的に不倫相手の赤ちゃんを連れ去ってしまったのです。
4年の逃亡生活の末、希和子は逮捕され、恵里菜は実の両親のもとに戻されました。
2005年。恵津子の娘・恵理菜(井上真央)は、21歳の大学生となっていました。バイトが終わった恵理菜の前に、フリーライターの千草(小池栄子)が現われます。
誘拐事件のこと、宗教団体のことを取材したい、というのです。
恵理菜は誘拐事件から介抱されあと、実の両親との関係がギクシャクしました。さらに、恵理菜自身も子供を身ごもりますが、くしくも相手は妻子のある男でした。
ある日のこと。
ライターの千草は、過去を告白します。
「恵里菜が誘拐されたころ、自分も宗教団体【エンジェルホーム】の施設で一緒に暮らしていた」
と、いうのです。
恵里菜は過去のおもかげを求めて、宗教団体の施設跡や、希和子と過ごした小豆島(しょうどしま)に渡りますが・・・
評価
ヤフー映画:★★★★☆ 3.9
Amazon:★★★★☆ 4.2
映画.com:★★★★☆ 3.7
- 内容は濃いのですが、理解するのが難しい
- 希和子は犯罪者なのだが、感情移入して大泣きした
- いままで一度も原作を買ったことがなかったけど、初めて小説を買ってしまった
映画『八日目の蝉』原作との違いを解説【時系列が複雑なのに泣ける!“回想シーン”の繋ぎがうますぎる】
原作小説の『八日目の蝉』はシンプルな構成です。
- 第1章・・・希和子が不倫相手の赤ちゃん(=恵里菜)を誘拐し、宗教施設に身を隠し、さらに小豆島(しょうどしま)に渡って住み込み生活をする。
- 第2章・・・大学生となった恵里菜がフリーライターの千草に連れられ、希和子とともに過ごした思い出の地をめぐる
檀れいさん主演のドラマ版も、原作に近い構成となっています。
ところが、映画版は大きく構成を変えています。
誘拐犯の希和子パート(1985~1988年)と、大きくなった恵里菜パート(2005、1990、2006年)を交互に行ったり来たりします。
過去と現在。誘拐犯と大きくなった女児。2人の主人公のエピソードを同時進行させながら行ったり来たり・・・
観客に集中力が要求される、ややこしい構成。この複雑な構成が意味を持ってくるのが、後半です。
原作では、恵里菜が希和子の足跡をたどり、小豆島に降り立ったところで幕を閉じます。
ところが、映画版は違う。
- 希和子と恵里菜が、島の人たちと“虫送り”という祭に参加した段々畑。
- 希和子と恵里菜が、2人だけの“家族写真”を撮った写真館。
恵里菜は記憶をたどりながら、幼児だったころに希和子と過ごした地を訪れます。しかも、ピンポイントでその場所に立ちます。
まるで(血のつながっていない)母と娘が、時空を越えた対話をしているかのようです。
なんという脚本のテクニック!
原作から大胆に構成を変えながら、これほど原作のメインテーマ「母性」を如実に表しているなんて!!
映画版『八日目の蝉』の脚本を書いたのは、奥寺 佐渡子(おくでら さとこ)さん。
>>『時をかける少女』(アニメ)あらすじ!“泣ける名作”になったのは,脚本家のおかげ?
回想シーンの繋ぎ、現在と過去を往来するような時系列のジャンプ。こういったシナリオを書かせたら、日本でも屈指の脚本家です。
- 『時をかける少女』(アニメ)・・・筒井康隆 原作
- 『Nのために』(ドラマ)・・・湊かなえ原作
- 『コーヒーが冷めないうちに』・・・川口俊和 原作
奥寺さんは、タイムリープ系のように時系列が複雑な脚本を得意としています。
時間の限られた映画では、原作小説のすべてのエピソードを映像化できません。
脚本家には、作品の“主たるテーマ”をどう抽出するか? という難題が課せられます。
映画『八日目の蝉』の場合、「母性」というメインテーマを描くために、本来ならサスペンスフルで見ごたえのある「不倫」「逃亡の瞬間」はあえて簡略化しています。
そして、過去(=誘拐犯の逃亡)と現在(=成長した女児が足跡をたどる)を同時進行させながら、誘拐犯と不倫相手の女児の“親子愛”が時空を越えて交わるという・・・
凄すぎる! 神シナリオです!!