「正統派ラブ・ストーリー」「泣ける!最後の恋愛」みたいな宣伝をされると、観客としてはプレッシャーを感じます。泣けなかったときは、“自分の感性がズレてるのでは?”と不安になってしまうから。
今回ご紹介するのは、私のひねくれた感性が試された韓国映画、『男と女』です。
韓国映画『男と女』の概要
『男と女』は、2017年公開の韓国映画。フィンランドのヘルシンキ、そして韓国のソウルを舞台にW不倫を描いた、純愛(!?)映画です。
男と女 | |
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原題 | A Man and a Woman |
製作国 | 韓国 |
公開 | 2017年 |
上映時間 | 115分 |
監督 | イ・ユンギ |
出演 | チョン・ドヨン、コン・ユ |
主演は、『シークレット・サンシャイン』のチョン・ドヨン。共演は、『コーヒー・プリンス1号店』『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』のコン・ユ。
『男と女』というと、1966年公開の同名フランス映画を思い出します。「ダバダダバダ~」の主題歌がおなじみのフランス映画です。ただ、内容からみても、今回の韓国版とは関係はないようです。
『男と女』のあらすじと感想
簡単なあらすじ
障害をもつ長男を、国際学校のキャンプに参加させるため、フィンランドのヘルシンキにやってきたサンミン(チョン・ドヨン)。彼女が出会ったのは、同じように障害のある娘をもつギホン(コン・ユ)でした。
キャンプ場へ車で向かったサンミンとギホンは、大雪のために足止めを食らいます。それぞれ家庭を持ちながら、孤独を感じていた二人。暖をとるため立ち寄った小屋の中で、お互いを求め合うのでした。そして、相手の名前も知らないまま、別れます。
それから、8か月後のソウル。
ファッション系の仕事をするサンミンの前に、ギホンが現れます。突然現れたギホンに戸惑いつつも、サンミンは彼に惹かれてゆくのでした・・・
フィンランドを舞台にした映画と言えば・・・
ヨーロッパ映画好きのわたしは、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督の大ファン。『過去のない男』『マッチ工場の女』など、無表情な中にくすっと笑えるユーモアが、なんとも言えぬ味わいがあるんです。
あとでビックリしたのですが、 イ・ユンギ監督もカウリスマキ好きだと判明します。
もはやサスペンス! 知的イケメンの強烈なストーカーぶり!
この作品、あきらかに上質な映画です。
雪に覆われたヘルシンキ。照明をたかない、自然光のみの撮影。言葉をほとんど交わさないのに、あふれ出る孤独感。チョン・ドヨンの反則級の色気。
ヨーロッパのアート系映画を観ているような、高級感に包まれます。
しかし! 宣伝文句から想像されるような「正統派ラブストーリー」とはかけ離れた印象です。とにかく、怖い!
知的イケメン、ギホン(コン・ユ)の強烈なストーカーぶりの記録です。以下に示したのは、始まってからのおおよその時間です。
・33分・・・サンミンがガラス張りのオフィスから外を見ていると、ギホンがこっちを見てる。
・40分・・・仕事の休憩中、タバコを買いに行ったサンミン。通りでばったりギホンと会う。
・45分・・・ピンポ~ン。ピンポ~ン。残業したサンミンのオフィスを、ギホンが訪ねてくる。
・56分・・・徹夜で企画書をつくったサンミン。朝、オフィスの前を見てみると、近くに車を停めて眠っているギホンが!
・58分・・・取引先に新幹線で向かうサンミン。乗客は、まばら。そっとサンミンの隣りの席に座るギホン。
怖いんですけど! ちょ~怖いんですけど!
わたしがこの映画の宣伝文句を作るなら、「5分に一度、ストーキングがある!」とするでしょう。こんなコピーライトは売れませんが。
しかし、ストーキングされるサンミンは、嫌がってはないんですね。音楽も、感動系の曲が流れる。ちゃら~ん。本人たちが盛り上がっているので、こちらも「お、おう」としか言えないわけです。
これ、感動したほうがいいのだろうか? 泣くべきなのだろうか?
おかしな感情に包まれたまま、物語はラストへ。ギホンとの関係を続けるべきか、別れるべきか?
選択を迫られたサンミンは、タクシーに乗ります。その運転手のおばさんの顔を見て、わたしのテンションは突如MAXへ!
『過去のない男』に出演していた、フィンランドの大女優、カティ・オウティネンではありませんか! しかも、車を停めたときに、ぷかぷかとタバコを吸ってる! 無口なキャラの喫煙シーンがよく出てくる、カウリスマキ監督オマージュ!
(⇦ 『男と女』を観た99%の人がスルーするであろう場所で、一人で興奮!)
チョン・ドヨンとコン・ユ。主演二人の演技は素晴らしかった。W不倫を描いていて、濡れ場もあるのに、清潔感があります。二人が“演技派”であるという評判は、ダテではありません。冒頭30分のヘルシンキの雪景色も、あまりに美しいです。
ひとつ残念なことを挙げるなら、サンミンの障害をもった長男。そして、ギホンの精神病の妻と、言葉を話せない娘。
彼らが、二人の恋愛をさまたげる障害物としてしか、機能してない点です。病気を持った家族との関わりが、ストーリーラインに劇的な変化をもたらしていたなら、「泣ける」映画になっていたかもしれません。
でも、こういういびつな映画、好きですよ!