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なぜ『万引き家族』は批判される?是枝監督がバッシングされる理由

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※この記事は約7分で読めます。

『万引き家族』でカンヌ映画祭最高賞・パルムドールを受賞した是枝裕和 監督。映画祭の中でも最高峰のカンヌでの受賞。日本人みんなにとっても誇らしい快挙のはずだったのですが・・・いつの間にか潮目が変わります。

 

反日映画、犯罪を助長する映画として激しく非難され始めたのです。

 

このページでは、是枝監督が批判されるに至った経緯を振り返りながら、日本社会の深い闇を探ってみたいと思います。

 

 

 

パルムドール受賞後の政府の対応

 

安倍首相はわれ関せず?

 

パルムドールの受賞が決まった後、いつもなら日本人が活躍をするとすぐに祝福をする安倍首相は沈黙したままでした。

 

歴史あるフランスの新聞・フィガロ紙は「なぜ安倍首相は祝福のコメントをしないのか?」と指摘します。すると、その後になって林文科相が祝意を伝えるため是枝監督を文科省に招きたい、と打診します。

 

ところが是枝監督は「公権力とは潔く距離を保ちたい」とホームページ上で発言、面会を辞退します。

www.kore-eda.com

 

ここで注意したいのは、是枝監督が面会を断ったのは林文科相だけではない、ということ。他の団体や自治体の祝辞も断っているのです。

(⇦ 団体が政権寄りか、そうでないかに関係なく)

 

にも関わらず、

「『万引き家族』が文化庁の助成金を受けて作られているのに、政府の祝辞を拒否するとは何事だ!」

という批判が巻き起こります。

 

 

 政府の助成金の問題点

 

実は、安倍政権は2018年度を目安に『明治維新』を題材とした映画やテレビへの支援を検討していました。

 

ところが、これには大きな問題がありました。

「助成金は出すが中身にも口を出す」

という内容だったからです。

 

政府がお金を出してプロパガンダ映画(=政治宣伝を目的とした映画)を作ることに他ならず、映画関係者たちの間で大きな議論を呼びました。

 

 

助成金で作られた映画

 

『のぼうの城』

『八日目の蝉』

『君の名は』

『この世界の片隅に』

などがあります。

 

公開当時物議をかもした『靖国 YASUKUNI 』も助成金を受けて作られています。

 

助成金の目的は、「我が国の映画振興に資するため」(文化庁)であって、ときの政権寄りの思想を植え付けるためではありません

 

 

 

この助成金のシステムは、ヨーロッパにもあります。イギリスには『アームズ・レングスの原則』という考え方があり、文化へ行政が介入することをよしとしません。いうなれば、『お金は出すけど、口は出さない』という方針なのです。

 

フランスでも、フランス国立映画センターから支援を受けて作られる映画はたくさんあります。しかし、完成した映画が痛烈に政権批判をしていても、それが問題になることはありません。

 

「世界」なり「社会」なりに対し批判精神を持って描くのが、映画の本質である

という考え方があるからです。

 

 

ハリウッドが差別や偏見を描き続ける理由

 

ハリウッド映画だってそうです。世界にはびこる「差別」や「偏見」をテーマにした作品が作られ続けています。

 

たとえば『ズートピア』のように、表向きは子供向けのエンターテインメントでも、アメリカ社会を痛烈に批判している作品が数多くあります。

 

 

これは、製作者たちがアメリカ社会に対して批判精神をもって映画を作っているからに他なりません。

 

 

 ※アメリカが、日本と大きく異なるのは、民間の寄付が充実している点です。

 

日本はアメリカほど、「個人や民間企業が、お金を出して芸術を奨励する」文化が根付いていないため、映画、絵画、音楽に国が補助金を出しているのです。

 

 繰り返しになりますが、補助金の目的は芸術の振興であって、政権のPRではありません。

 

 

 

 

 

 

『万引き家族』製作の意図とは?

 

“消えた高齢者”事件

 

2010年に足立区で111歳とされていた男性が白骨化した状態で発見されていました。男性は30年も前に死亡していたことがわかります。家族は死亡届を出さずに年金をもらい続けていたとして、詐欺で逮捕されます。すると、全国で似たような事例があることが判明します。

 

この事件は年金詐欺として大きな話題となり、家族はバッシングを受けました。

 

是枝監督はこの事件をきっかけに、年金と万引きで生計を立てる家族の物語を着想しました。それが、『万引き家族』です。

 

 

「貧困=自己責任?」短絡的に決めつけてしまう風潮

 

 

あの事件で貧困家族はなぜ、行政に助けを求めなかったのでしょう。それは、貧困を認めることは失敗者の烙印を押されることに他ならないからです。

 

「生活が苦しいのは怠けたからだ」と切り捨て、貧困をあたかも個人の責任であるかのように捉えてしまう空気感が世の中に溢れていたのです。

 

是枝監督は、なぜ世間は、凶悪な殺人事件よりもこのような軽犯罪に怒るのか、と疑問に持ったといいます。

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「万引き」をタイトルに入れるなんて許せない・・・こじつけとしか思えない批判

 

政権寄りの人たちによるこのバッシングは、的外れであることがわかります。

 

というのも、彼らはどうして貧しい家族が誕生するに至ったのか、その背景を想像しようとしていないからです。【失敗=本人の努力不足】と短絡的に決めつける空気は、依然として根強いように思えます。

 

「万引き」はテーマではありません。“共同体の崩壊”というテーマを浮き彫りにするための装置にすぎないのです。

 

・実の両親の虐待・育児放棄の表面化

・地域の人たちの交流が希薄になり、他人を助けることが難しくなっている

・生活保護など、社会福祉を利用することへの申し訳なさ

・社会福祉制度を利用するためには、煩雑な手続きを取らねばならない

 

映画には、このような現代日本の問題点が描かれています。これは、どこの政党が政権を取っているかに関係なく、社会として解決せねばならない問題なのではないでしょうか?

 

 

是枝監督を「恥さらし」「反日」と批判する人たちは、共同体や家族が壊れている現実を知らないか、その現実から目を背けているのでしょう。

 

むしろ本当に国を愛するのであれば、弱者や貧困層を生み出さない社会にするにはどうしたらよいのか、建設的な提案をするべきではないでしょうか?

 

 

まとめ

 

作った映画が大きな議論を呼ぶことは、製作者冥利に尽きるでしょう。相反する意見が出てくることは、むしろ社会が正常であることの証でもあります。

 

映画を観て、それでもなお是枝監督の思想が嫌いだ、という人だっているでしょう。

 

ただ、映画を観ずに的外れな批判をするのだけはどうかと思います。