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2次創作ならぬ1.5次創作?金田一少年にポワロ。名探偵のスピンオフが面白い!

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『金田一少年の事件簿』は、週刊少年マガジンで1992年から2001年まで連載されていた人気漫画。推理漫画ブームの火付け役となり、堂本剛や松本潤が主演したドラマも話題となりました。

 

一方、今から約100年前。ミステリの女王アガサ・クリスティーが生み出したのが名探偵ポワロ。1920年出版の『スタイルズ壮の怪事件』から1975年の『カーテン』まで、長編33編・短編54編で主役をつとめた人気キャラクターです。

 

そんな日英を代表する名探偵のスピンオフ作品が面白いので、ご紹介したいと思います。

 

やめてくれ金田一! 完璧なトリックをばらさないで~ 完全犯人視点のスピンオフ! 

 

金田一少年に謎をすべて解かれた犯人の視点で語られる事件。『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』は2017年に出版されたコミックス。オペラ座館殺人事件、秘宝島殺人事件など原作の有名エピソードを、犯人の視点から再構成した漫画です。ファンによる2次創作ではなく、原作のさとうふみや氏・金成陽三郎氏も関わっている公式のスピンオフです。

 

金田一少年シリーズといえば、『名探偵コナン』とは違ってリアル路線。陰惨な描写が多く、連載当時に子どもだった僕らにはトラウマレベルの漫画でした。しかし、犯人の立場で語られると、あらビックリ! 完全にギャグ漫画と化します。

 

ファイル4 雪夜叉伝説殺人事件

 

極寒の雪氷村に、TVのどっきり番組のアルバイトにきた金田一少年たち。恐ろしい事件に巻き込まれてしまいます。土地に伝わる雪夜叉伝説になぞらえて、次々と被害者たちが葬られてゆきました。

 

無関係に思われた被害者たちは、全員が10年前の飛行機事故の関係者だったことがわかります。犯人は、綾辻真里菜。彼女の仇である水沼は、身を隠すために天才画家になりすましていました。真里菜は、にっくき水沼に容疑が向けられるような完璧な計画を思いつくのですが・・・

 

その実行のためには彼女自身のアリバイを作らねばなりません。そこで彼女は、崖と崖の間に氷の橋を作ることを思いつきます。

 

手順としては、こうです。崖と崖の間に、ロープと木の枝で作った土台を作ります。その上に雪を乗せます。そして、崖の下にある川の水をくみ上げ、土台の上にかけて凍らせるというもの。犯行場所へ向かう時間を短縮できるばかりか、氷が溶けてしまえば証拠がなくなり、自身のアリバイ作りにもなります。

 

ところが、口で言うのは簡単なトリックでも、実行するとなると話は別。真里菜は、吹雪が吹き荒れる夜に、ひとりで崖に向かいます。気温、マイナス20度。ちんたらしてたら凍死するレベルです。さらに、バケツを使って川の水をくみ上げるのですが、これが重い。川の水は流れが速く、油断したら体ごと持っていかれてしまいます・・・

 

主人公役の犯人たちはどれも、とんでもない犯罪者たち。ですが、そんな彼らがこの漫画では人間味あふれるキャラクターとして描かれます。犯罪計画を実行するため必死に体を張る犯人。偶然、名探偵が居合わせたことに驚く犯人。金田一少年が真相に迫ってゆく様子を横目で見ながら焦る犯人・・・爆笑必死です。

 

マガジンポケットで一部の作品を無料で読むことができます。

pocket.shonenmagazine.com

 

 

名探偵ポワロの推理ミス? クリスティ最大のアンフェア作品『アクロイド殺し』の矛盾に教授が迫る!

 

犯人のパターン、トリック。小説家アガサ・クリスティーは、推理物のあらゆる型を生み出しました。現在の推理小説のほとんどがクリスティの亜流だといっても過言ではないでしょう。

 

容疑者全員が犯人。誰もがバカだと思っていた人が犯人。一度警察に捕まって釈放された人がやっぱり犯人・・・読者の心理の裏をつく、犯人のパターンは様々です。

 

その中でも、「フェアか?アンフェアか?」最大の論争を巻き起こしたのが、1926年に出版された『アクロイド殺し』でしょう。この小説は、〇〇役が犯人という前代未聞の結末を迎えます。ひとつだけヒントを言うなら、映画やゲームではこの驚きは半減します。小説だからこそビックリする仕掛けなのです。

 

 

ところが、そのポワロの推理に真っ向から異を唱えた評論(エッセー?)があります。それが、筑摩書房の『アクロイドを殺したのは誰か』という本です。

 この本では、ポワロの推理を「妄想」だと切り捨て、事件の犯人は「あの人物」ではないと断定しているのです。そのうえで、本書独自の驚くべき真犯人を導きだしています。

www.chikumashobo.co.jp

 

この本を書いたのは、ピエール・バイヤール氏。ただのクリスティ・ファンではなく、パリ第8大学の教授だった方。文学評論・精神分析のエキスパートで、『読んでいない本について堂々と語る方法 』というめっちゃ面白い読書論も出しています。

 

バイヤール氏は、『アクロイド殺し』の手法が推理小説としてルール違反ではないとし擁護。その一方で、ポワロの推理は間違っていると指摘しています。容疑者の性格・アリバイ・動機を改めて精査しなおし、「あの人物」では犯行を成しえなかったと結論づけるのです。

 

途中で大学の教授らしく(?)、メタ・ミステリー論や文学理論、フロイトや『オイディプス王』にまで話が及ぶため、小難しく感じるかもしれません。「読書」という行為はあいまいで記憶が再構成されやすい。なので、読者によって異なる犯人を導き出す可能性があるというのです・・・うう。教授、何いってるかわからんよ、教授!

 

しかし、終章ではバイヤール氏みずから事件を推理していきます。容疑者の性格や行動パターンから、論理的に犯人を絞ってゆくのです。このロジックには「なるほど」と思わせてくれるものがあり、氏が導き出した真犯人には納得してしまいます。

 

教授の推理でもっとも的を射ているのは、次の点。ポワロが導き出した犯人は、冷静で頭が良く、自信過剰な人物。ところが、実際の犯行は小さなミスを繰り返していること。「あの人物」がやったにしては犯行がずさんすぎる、と指摘しているのです。

「その通り!」

博多華丸だって、そう叫ぶでしょう。納得だ。教授、すごいよ、教授!

 

 

絶版となっているので、図書館や古本屋で見つけたら手に取って欲しい書一冊です。『アクロイド殺し』や『カーテン』など、ポワロ物を数冊読んだ人向けの本ですけどね。